キャリアと生き方│ビジネスケアラー 「大介護時代」の到来に向けて仕事と介護を両立できる組織に 佐々木 裕子氏 リクシス 代表取締役社長 CEO
国民の約5人に1人が75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」を前に、働きながら介護をする「ビジネスケアラー」の存在が注目されている。
その現状と課題、企業に求められる対策などについて、仕事と介護の両立を支援するクラウドサービスを提供するリクシス代表取締役社長CEOの佐々木裕子氏に聞いた。
[取材・文]=増田忠英 [写真]=リクシス提供
働く人の半数はケアラーかケアラー予備軍
経済産業省の調査によれば、働きながら介護をする「ビジネスケアラー」の数は年々増加傾向にあり、2030年には家族介護者の約4割に当たる318万人に達するという。また、ビジネスケアラーの発生による経済損失は2030年時点で約9兆円に迫ると推計されている。こうした状況への危機感から、同省は2023年に「企業経営と介護両立支援に関する検討会」を立ち上げ、企業における両立支援に向けたガイドラインの取りまとめを目指している。
同委員会の委員の1人でもある、リクシス代表取締役社長CEOの佐々木裕子氏は、企業におけるビジネスケアラーの現状についてこう話す。
「当社のクラウドサービス利用者の分析によると、ビジネスパーソン全体の16.6%はすでに仕事と介護の両立が始まっており、3年以内に両立が始まる可能性があると感じている人を加えると、全体の50.8%と半数を超えます」
ビジネスケアラーが増える背景として、佐々木氏はこの約10年の間に起きた人口構造や世帯構造の急激な変化を挙げる。総務省の労働力調査によれば、就業者に占める45歳以上の割合は右肩上がりに増えており、ビジネスパーソンのほぼ半数が該当する。
さらに、現在の80歳以上の人口は2000年の486万人から倍以上の1,235万人(図1)団塊の世代が後期高齢者にさしかかっているためで、団塊ジュニア世代はビジネスケアラー世代のど真ん中にいる状態だ。
加えて、かつては働いていない女性が多かったため、いわゆる“お嫁さん介護”が同居介護の3割程度を占めていたが、現在は15%を切っており、多くが老老介護や実子介護になってきている。
「場合によっては、複数人の介護をしなければならないケースも出てきます。よくあるのは、老老介護をしていた親も倒れて、子どもが両親2人を同時に介護しなければならなくなるパターンです。最近は子どもが減っていることもあり、さらに義理の両親や、子どものいない叔父・叔母の面倒も見なければならないなど、複数人の介護を想定しなければならない状況にあります。
結果として、子の世代だけでは支えきれず、孫世代も介護をサポートするケースが増え、20代や30代の若い世代であっても、当事者になりうる状況にあります。
こうした人口構造や世帯構造の急激な変化によって、かつてのケアモデルと令和以降のケアモデルは劇的に異なっている点に注目すべきです」
介護をカミングアウトできず精神的負担が増加
このような急激な変化は、企業にも大きな影響をもたらしている。
「介護を家族の誰かにお願いして、自分は仕事を続けるというケアモデルが成り立たなくなってきたということです。これからは、ビジネスパーソンがいかにケアをしながら仕事をするかが焦点になってきています」