ATDの風 HR Global Wind from ATD <第11回> グローバル・HR研究会から ~ “ 世界で戦える本社・組織運営”をめざす
米国で発足した人材・組織開発の専門組織ATD(タレント開発協会)の
日本支部ATD-IMNJが、テーマ別にグローバルトレンドを紹介します。
日本企業の組織運営の限界とは
「日本企業の工場、または本社機構を買収できるとしたら、どちらが欲しいか?」
この問いかけで、日本企業の本社が選ばれるだろうか。本社が選ばれるとすれば、それは本社の運営方法と意思決定の質が優秀で組織の活力を生み 、世界の模範となる場合だろう。そうであれば世界の若者や経営幹部が日本企業に憧れて入社してくるはずだ。しかし、現実には海外の有能な人材を惹きつける日本企業は少ない。
私が、2010年からATDに参加したのは、日本企業の本社・組織運営に危機感を抱いていたためだ。20代から国内外の企業の投資価値を分析する証券アナリストの分野で働き、外国人との共同組織の運営に失敗する企業事例を数多く知った。そして50 代には、自分のライフワークを「人事部門の活性化」にしようと決めた。
財務数字はあくまで結果に過ぎない。経営革新のカギは人事部門が本社改革の先頭に立てるかどうかだ。そこで私は2014~15 年にかけ、ATD-IMNJで1回目のグローバル・マネージャー研究会を主宰し、参加メンバーと議論を重ねた。
研究会がまず、注目したのは環境の変化である。周知のように、世界の上場企業の時価総額(株価×株数)に占める日本企業のシェアは、1990 年代では20% 以上だったが、現在は10%に満たない。さらに、世界時価総額ランキング上位100 社に登場する日本企業は2社しかない。
つまり、世界の投資家は将来、生み出される価値において、日本企業の役割は小さいと認識している。時価総額は将来性の指標であり、将来の企業価値を生み出すのはその企業の経営陣と社員だ。したがって、未来を拓くうえで、人事部門の使命と役割は大きい。
世界市場の競争の主戦場は、過去50 年間で様変わりしてきた。変化の背景には以下の3つがある。
(1) 輸出競争力:輸出する製品の価格・品質(主に工場の人材と営業力)
(2) 海外工場の生産性と製品の価格・品質(主に海外工場の人材と営業力)
(3) 地球規模の多様な人材の総合力(経営陣、人事、財務、法務、IT……全ての人材)
日本企業では、製品・サービスといった直接対価を得る「財」そのものに競争力があり、評価される傾向が強かった。このため現在でも、「財」の品質・価格に焦点を当てる一方で、本社の経営組織・権限、あるいは日本のマザー工場の方式を改革せずに、グローバル展開をしている例が目立つ。そこには、現状の陣形(採用、退職、編成)、指揮系統(昇格、権限規定)、報酬・育成体系をなるべく変えたくない、という本社の現状維持バイアスが働いている。
グローバル・マインドセットと現状
国内市場の成熟、ビジネスの国際化が進むと共に、日本企業は直接投資、企業買収にも積極的な姿勢を見せるようになった。
ただし、これは「課題への着手」の段階に過ぎない。現実に、異文化に人材・ノウハウを投入したり、異文化からそれを導入したりすれば、摩擦と混乱が起こる。そこから逃げず、混乱の海を泳ぎ抜く組織開発・人材開発があってこそ、顧客満足、生産性、開発力を高めることができる。