OPINION3 “個の理解”が活躍を促進 パーソナリティ×状況が強みを生み出す 鈴木智之氏 名古屋大学大学院 経済学研究科 産業経営システム専攻 准教授
“強み”と近い概念に“パーソナリティ”がある。
性格を意味する心理的特性のことで、強みを理解するうえでは欠かせない概念のひとつだ。
心理的特性とキャリアに詳しい名古屋大学の鈴木智之准教授に、パーソナリティの捉え方や活かし方について聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=鈴木智之氏提供
個の強みは「状況との掛け算」で決まる
接客や営業は「明るい人でないと務まらない」と、当たり前のようにいわれる。そういう仕事では、性格が明るいことは「強み」になると、広く信じられているわけだ。
だが、名古屋大学大学院の鈴木智之准教授は、「必ずしもそうとは限りません。実は私自身、性格検査を受けると、かなり『明るい』と判定されるタイプなのですが……」と、実体験を例に挙げて旧来の人間理解に一石を投じる。
「私は研究者になる前、新卒でコンサルティング会社に就職しました。コンサルタントもある意味、接客業なので、明るい方が活躍するイメージがあるじゃないですか。でも、『おまえ、うるさい』とよく怒られましたよ(笑)。『明るいから接客で活躍できる』といった単純な話ではなく、状況によっては、明るいからダメというケースも結構あるわけです」(鈴木氏、以下同)
鈴木氏は、パーソナリティ研究が専門で、個人の心理的特性とキャリアの関係に詳しい。パーソナリティとは、日本語で「性格」と訳される、青年期以降の心理的特性のひとつ。よく似た言葉に「気質」があるが、こちらは乳幼児期の同特性を指す。
「個の強みを活かすと言いますが、パーソナリティについては、それ自体に『強い・弱い』があるわけではありません。特定の性格が強みになるかどうかは、あくまでも『状況との掛け算』で決まるのです。職場環境やジョブの実状など、その人の置かれた状況に左右されることがわかっています」
鈴木氏はそう指摘したうえで、「組織が個を活かすためには、まず個をよく理解することが大前提」と釘を刺す。性格とパフォーマンスを短絡的に結びつける、「明るいから活躍できる」式の粗いロジックでは、間にある「状況との掛け算」が抜け落ちてしまう。それも考慮に入れて、個の解像度を高めていく必要があるということだ。
ビッグファイブと仕事での活躍の関係性
鈴木氏によると、パーソナリティ研究の起源は19世紀後半。イギリスの科学者として名高いフランシス・ゴールトン(進化論で知られるダーウィンの従弟)が「人間の性格はいくつあるのか」という関心を抱き、当時の辞書からパーソナリティを示す語をすべて抜き出したことに端を発するという。
「辞書研究といわれる手法で、結果、1,000語ほど出てきました。その後、1930年代に米・ハーバード大学で行われたときは約4,500語。それをグルーピングし、5つの因子にまで絞り込んだのが有名な『ビッグファイブ理論』です」
5つの因子とは外向性、協調性、誠実性、情緒安定性、開放性。人の性格はこれらの特性の組み合わせや量的差異によって表すことができるというのが、ビッグファイブ理論の考え方である。
ビッグファイブは、パーソナリティ研究の基盤を成す特性理論として、世界的にもっとも支持されているが、「現代では個をより緻密に分析するために、ビッグファイブの枠に収まらない心理的特性も見ていく必要が出てきました。たとえば、レジリエンスや自己統御力といったものも、いまではパーソナリティの1つと見なされています」と、鈴木氏は解説する(図1)。