人材教育最前線 プロフェッショナル編 提言できる人事が個人、組織と社会を変えていく
企業コンサルタントから転身し、人事として日本企業の成長を後押しするAIG富士生命保険の人事部長、古川明日香氏。コンサルタントとしての経験があるからこそ見えてくる現場が抱える課題や、「人事」という組織そのものの問題を、経営者と現場の双方の目線から探る。自身の付加価値を追求し、「提言する人事」として、同社で確立しようとしている新たな育成体制は、単なる研修プログラムや仕組みではない。社員一人ひとりの成長のタイミングを捉え、タイムリーに教育の機会を提案する古川氏ならではのものである。
人事を内側から変えたい
古川氏が人事の道をスタートさせたのは2011年、前職のダノンジャパンからである。大学卒業後、外資系金融機関に就職。その後、大手外資系の組織・人事コンサルティング会社で10年間、クライアント企業の課題解決に取り組んだ。そんな古川氏がコンサルタントを辞め、あえて企業内部の人事に転向しようと考えたのは、「日本の人事を内側から変えたい」という気持ちがあったからだという。「もともとのめり込む性格もあって、クライアントの課題を解決するために、時にはぶつかったりしながら一緒になって解決していくのが好きでした。課題を根本から解決し、変革を起こすにはクライアント自身が変わっていく必要があります。ですが、契約やプロジェクトが終了し、クライアントから『後は自分でやります』と言われれば、その後のフォローはさせてもらえません。最後まで見届けることができないまま別のプロジェクトに配置されてしまい、『本当にその会社のためになったのか』と、いつも何か、もどかしいものを感じていました。それならどっぷり企業の中に入り込み、自分で舵取りをしながら変革を起こしていく立場になりたい。そして、もしかしたら変革を起こせない1つの要因に、人事の組織そのものがあるのではないかとも考えたのです」そんな古川氏にとって、人事へと進むきっかけの1つでもあり、今でも深く印象に残る出来事がある。グローバル化をめざし取り組んでいたクライアント企業の経営者に、ある日呼び出され、ひどく怒られたのだ。「そもそも経営者の気持ちがよくわかっていなかったことが原因でした。私の直接のクライアントは社長ではなく、その下の役員層でしたが、社長は役員層がやっていることにフラストレーションを感じていて、それを第三者である私にぶつけられたのです」外部にいると日々の生々しい事象はキャッチし切れず、抽象度の高い情報しか得られない。どんなにクライアントの中に入り込んでいても、経営者から社員まで全ての人とかかわることはできず、外部の人間にはどうしても見せてもらえないものもある。限定的な情報で物事を判断して決めざるを得ない。また、物事を変える時、その組織にとってちょうどいいタイミングというものがあると古川氏は言う。例えば、人が多く流出してしまったタイミングで将来的なタレントマネジメントの必要性を訴える。「今、人材育成にコミットさせるモードになりそうだ」など、提案が一番心に刺さる時期や機会は、内部にいるからこそつかめるという。「外からではそうしたタイミングがわからないので、提案書を持って一生懸命プレゼンしても、全く相手に響かないことがあります。昔は、提案の中身が悪かったからだと思っていましたし、確かにそれも一因かもしれませんが、重要なのは“相手が喉が渇いた時に、水を与えることができるか”なのです」