船川淳志の「グローバル」に、もう悩まない! 本音で語るヒトと組織のグローバル対応 第4回 「多様な他者」に対峙するために
多くの人材開発部門が頭を悩ませる、グローバル人材育成。
グローバル組織のコンサルタントとして活躍してきた船川氏は、
「今求められているグローバル化対応は前人未踏の領域」と前置きしたうえで、だからこそ、
「我々自身の無知や無力感を持ちながらも前に進めばいいじゃないか」と
人材開発担当者への厳しくも愛のあるエールを送る。
人の見方は千差万別
「私、船川はこのような仕事を何年ぐらいやっているのか、推論してポストイットに書いてみてください。ヒントは素数です」今年、各企業で行ってきたさまざまなワークショップの冒頭で参加者にこの質問をしてみた。書いてもらうことによって、参加者全員のそれぞれの持っている仮説とそれを形成するイメージ、期待値、あるいは先入観があぶりだされる。もちろん、この質問をアイスブレークとして効果的に使うために、よくありがちな「事務局による講師略歴紹介」は省いてもらっている。「型通り」の進め方ではないことを、ワークショップの開始からすぐに参加者に体感してもらいたいからだ。1回あたり20名前後の参加者が平均的だが、参加者が推論した私の経験年数は3年から23年とかなりばらつく。23年どころか、31年と答えた方もいた。おもしろいのは、その理由だ。3年、5年と答えた方は、「おそらく、例えば商社のように、海外関係の仕事をしていて、その経験をもとに講師をやっているのではないか」というような仮説を述べる。つまり、実務経験に裏打ちされていそうだ、との推論がある。また、7年、11年、13年と10年前後の経験と答えた方は「『グローバル』という言葉が聞かれるようになったのはこの10年ぐらいだから」と述べている。また17年、19年あるいは23年という方は、「話し方が自信に満ちているので」とか「相当こなれているので」というように「長い経験あり」との判断をしている。中には、「あまり長くやると飽きるので、だから7年!」と言った人もいた。ついでながら、この質問と合わせて「私の体重を推論してください。ヒントは3の倍数です」と聞くこともある。こちらも、48キロ!から72キロまでとばらつくのだ。もちろん、「経験年数」と「体重」を比べたら、後者のほうが客観性が高くなるので、この質問に関する参加者の答えの分布がより正規分布を示す傾向がある。どちらも、「人の見方は千差万別」「他者は自分と必ずしも同じ見方をしているわけではない」という事実を実感してもらえるアイスブレークだ。ただし、目的はそれだけではなく、その根底にある我々の認知システムの理解を深めることも狙いだ。
「百聞は一見にしかず」の英語
「百聞は一見にしかず」を英語で言うと「Seeing is believing」と受験英語で習った記憶がある方も多いだろう。ところが、この2つの表現には微妙なそして重要な意味の違いが潜んでいる。英語の表現では「A photographtells a thousand words.」もしくは「A picture is worth a thousandwords.」もある。「画像情報は文字情報よりインパクトがある」という意味合いであり、こちらのほうが日本語の「百聞は一見にしかず」に近い。例えば、難民の話をいくら聞いても心が動かなかった人が、1枚の写真によって難民の苦悩に想いを馳せるきっかけをつくるというのはまさにこのことだ。