第26回 「耳」を養う研修、台本にない「なにか」を探る現場 テレビの中で育つアナウンサーの学び 清水大輔氏 TBS アナウンサー 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
テレビやラジオで活躍するアナウンサー。
フリーのアナウンサーも増えていますが、
ほとんどは就職活動を経てテレビ局に入社した
社員アナウンサー、“局アナ”です。
的確にニュースを伝えたり、臨場感溢れる実況を行ったり、
個性を発揮して番組を盛り上げたり…と、
テレビ、ラジオ番組に欠かせない存在であるアナウンサーたちは
どのように育っているのでしょうか。
「ウクライナの大統領選挙から一夜明けた26日、東部ドネツクの空港を包囲していた親ロシア派の武装集団に向け、ウクライナ軍が空爆に踏み切りました……」東京・赤坂のTBS本社11階にあるアナウンス部の会議室では、研修中のアナウンサー笹川友里さんが練習用のニュース原稿を読む声が響き渡っています。笹川さんは1年目に制作職を務め、2年目にアナウンス部に社内異動となった局内初のアナウンサー。一緒にICレコーダーで録音した声を聞き、「どこが気になった?」と、尋ねるのは指導役の清水大輔アナウンサーです。「親ロシア派の『親』の部分が少し強かったように思います」「そうですね、他には?」清水さんは再度、録音した音声を流します。原稿を読み、録音した音声を聞いて、発音や発声、アクセントで気になる部分を修正してまた原稿を読む……。アナウンスの基礎を学ぶ研修は、こうした地道な訓練の繰り返しだといいます。
3カ月間のアナウンス研修
「新人アナウンサーへの研修は約3カ月間。新入社員研修を終えた6月から8月までです。その後、クッション期間の9月を経て、番組改編期の10月から本格的に番組のレギュラーに入る、という流れが一般的です」と話すのは清水さん。冒頭で紹介した笹川さん他、新人アナウンサーの研修を担当します。清水さんは、札幌テレビ放送を経て1993年にTBS入社。主に野球、サッカー他、さまざまなスポーツ中継などを担当するベテランです。3カ月間の研修中は、1コマ1時間半の授業を1日3コマ受講します。研修のプログラム、テキストは長年、改訂を重ねながらTBSのアナウンス部で受け継がれてきたオリジナルです。アナウンサーの研修は、まず腹式呼吸でお腹から声を出す練習から始まります。「演劇も歌も同じかと思いますが、浅い呼吸で発声すると、喉が開かず、いい声が出ません」続いて、正しい口の形で正しく発音する練習をします。人によって癖があったり、間違った発音をしていたりするので、日本語の発音を一から学び直します。「最近はなぜか『さ、し、す、せ、そ』を、シャープに発音できない人が増えています。いずれにしても完璧な発音を身につけるには3カ月ではとても足りません」発音の仕方と同時に「促音、長音、鼻濁音」や「頭高型、中高型、尾高型、平板型」(アクセントの種類)など、日本語の音韻についての専門用語も学びます。研修では「『4月』は頭高ではなく、尾高で読んでください」といったやりとりをするので、アナウンス技術を伝えるために共通言語を持つ必要があるからです。その他、テキストには早口言葉のような滑舌を鍛える練習文なども載っています。