OPINION 3 ASEANにおける人材育成を考える アジア重視の姿勢が顕著な日本企業の人材育成の課題と対策
中国に始まった日本企業のアジア進出は、今ではタイをはじめとするASEAN諸国へとターゲットが急速に拡大している。その流れに対処するための人材育成は日本企業にとって大きな経営課題だ。ASEAN諸国、とりわけタイのビジネス事情に詳しい野元氏が、日系企業のアジア地域でのビジネス展開および人材育成上の課題と対策について語る。
変化対応スピードが課題
日本企業のアジア進出、特にタイを例にその変遷を見てみることにしよう。まず1980年代から1990年代にかけては、自動車や電機を中心とした大手製造業が中国に代わる生産拠点として進出速度を速めていった。そして2000年代から2010年代にかけてはそうした企業が今度はアジアを有力な販売市場としても捉えるようになった。それが今後2020年にかけては、アジア地域を市場とするための研究開発拠点としてもビジネスを展開していくだろうと予測されている。こうした流れの中で、日系自動車メーカーはタイ国内の販売シェアで9割を占めるほどに成功をおさめている。そして生産や販売だけではなく、研究開発および設計拠点としても力点を置くほど、アジア重視は年々顕著になってきている。
ただ、こうした成功例ばかりというわけではない。タイはASEAN諸国の中でも日本企業の進出数では中国に次いでいるが、そうした隆盛とは裏腹の企業もある。モノづくりでは世界的に評価の高い日本企業だが、製造業として進出した企業でも苦戦しているところはあるし、市場としてのビジネス展開では、欧米企業に後れをとっている企業も多い。ところで、製造業では、大手製造業を支えるティア1と呼ばれる部品メーカー、さらにティア1を支えるティア2、ティア3と呼ばれる中小企業など、上位企業に伴ってアジア進出を果たした企業群がある。こうした土台を担う企業が、今では生産技術で力をつけてきたローカル企業に苦戦を強いられるほど、その力の差異が小さくなってきている。力をつけてきたローカル企業の強みは何といっても、対応力の速さだ。日本企業の場合、発注依頼が来たら、まずは日本で開発設計および生産の検討がなされ、それからローカルでの製造に入ることが多いのだが、ここにタイムラグが生じる。そのため、ローカル企業に優位性を発揮されてしまう。生産コストに加え、開発のスピードでも負けてしまうのだ。
アジア企業との協業ということでいえば、商品企画を日本で行い、設計や製造を台湾や中国のメーカーに委託するビジネスモデルのODM/EMS(相手先ブランドによる設計・生産)がある。ただこれは、品質への要求が高い日本向け製品の製造は、技術移転が課題となった。技術盗用を恐れる日本企業は、日本から技術者を差し向けることでその課題に対処することになり、そもそものコストダウン施策が、その期待通りとはならない結果となったこともあったようだ。日本からのマネジメントを重視したことでの問題だが、こうしたことにうまく対応できているのが欧米企業や世界的に急成長を実現した韓国企業であった。