OPINION 1 日本人駐在員に求められる能力 ローカル社員が評価するパフォーマンスの高い上司の特徴とは
日本企業のアジア新興国を含む海外オペレーションが拡大する中、そのオペレーションを担当する専門家や責任者、いわゆる「グローバル人材」の不足が叫ばれている。この「グローバル人材」という言葉は2008年のリーマン・ショック以後、頻繁に使われるようになったと言う白木三秀氏に、日本人駐在員に必要とされる資質やスキル、育成上の課題について語ってもらった。
「国の違いによる人材要件」の誤解
アジア現地法人の人材育成を考える際、その国の文化や特徴に合った人材を国ごとに育成する必要があると、「国の違い」が強調されることが多い。しかし、これは大きな誤解だ。それぞれの国の文化や習慣、宗教などについての知識は確かに必要不可欠だが、ビジネスは基本的にどこの国でも同じはずだ。違うのは、スタートアップなのか、成長期なのか、成熟期なのか、衰退期なのかという「ビジネスのライフサイクル段階」である。この違いによって、必要な人材が変わってくる。1985年のプラザ合意後、旧ASEAN(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン等)やアジアNIES(韓国、香港、台湾、シンガポール)への日本企業の進出が本格化した。こうしたスタートアップ段階では、ゴールを設定し、それを達成しようとするパフォーマンス志向の強いリーダー人材が必要であった。
しかし現在は、これらの地域の現地法人には、すでに20~30 年の歴史があり、ローカル人材の蓄積層も厚くなっている。日本人派遣者の平均年齢は40代半ばが多いようだが、現地にはそれ以上に経験を積んだローカル人材がいることも珍しくない。1980~90 年代であれば、日本から来たというだけでローカル社員から一目置かれたが、今では専門スキルやマネジメント能力が乏しければリスペクトされなくなっている。また、これらの地域の現地法人は安定した成長期に入っているため、集団の社会的安定をより強く意識したメンテナンス志向の強いリーダーが求められているといえる。これに対して、中国、ベトナム、インド、ミャンマーといった新興国への進出は2000 年以後で、その歴史はまだ浅い。いわば、スタートアップの時期であり、こちらに必要なのはパフォーマンス志向のリーダーだろう。国によって必要なリーダー像が違うのではなく、ビジネスのライフサイクル段階によって必要なリーダー像が違うということだ。「グローバル人材」を考える場合にリーダーシップとマネジメントの違いをはっきりと分けて考えることも重要だ。
図に示したように、コッターによれば、リーダーシップの基本的役割は、「変化と運動を引き起こす」ことで、マネジメントの基本的役割は、「秩序と整合性をもたらす」ことだ。つまり、現地法人のトップ層にはリーダーシップの発揮が望まれ、ミドル層にはマネジメントの役割が期待される。ところが、日本人駐在員は、日本にいる時にはミドル層としてマネジメントの仕事をしているにもかかわらず、現地法人ではトップ層に就任することが多い。このため、リーダーシップを発揮してローカル人材を使っていくことに不慣れで苦しんでいる。もちろん、派遣されるのはミドルとして優秀な成績を上げた人材だ。それでも、有能なミドルが有能なトップになるとは限らない点に注意が必要だ。