ID designer Yoshikoが行く 第87回 カギは「3つの壁」。引力あるプレゼンのコツ
ある大学の工学部2年生に、「プレゼンテーション」の講義を始めた。「ロボットの設計に熱中している、あのいかにもシャイな若者たちに、プレゼンの講義ですか?」と戸惑ったが、指導教授としては「黙々といいモノを作るんだから、そのいいモノと、それを作った自分を、もっとアピールできるようになってほしいんだよねぇ」という親心らしい。
どうやら、「お、も、て、な、し♪」でオリンピック招致を勝ち取った、あのファッショナブルなプレゼンが教授のアタマから離れないらしい。「お手元の資料をご覧くださいませ型」プレゼンでもなく、「パワーポイントのアニメーションってすごいでしょ型」プレゼンでもなく、プレゼンター本人が魅力的に見えて、聴き手がその人のファンになってしまうような「引力のあるプレゼン」のコツを教えてほしい、とまことにハードルの高いご所望である。
しかし、日本人のプレゼン下手には定評がある。よく言えば「慎み深くて謙虚」、正直に言えば「感情表現に乏しく何を考えているのかわからない」というのがグローバルな評価である。説明する前に「空気」を読んで物事を進めるのが「デキる人材」という思い込みと、「黙っていてもよいモノは売れる」という「モノづくり信仰」から、改めてプレゼンしなくてもなんとかなってきた歴史のせいかもしれない。
しかし、今や「空気」を読むだけではダメで、「モノづくりのプロは、モノの魅力を語るプロでもあるべきだ」と言われる時代。だから、ここらでひとつプレゼン力を、という教授の想いなのである。