OPINION 迫りくる採用戦国時代 生き残りのカギは採用戦略の構築と採用プロフェッショナルの育成
「2016年問題」など、新卒一斉採用のあり方に対する疑問が各所で提起される中、経営学の立場から採用について研究する「採用学」を立ち上げ、注目を浴びている服部泰宏氏。「採用の『曖昧さ』に問題がある」と話す服部氏に、「採用学」の立場から見た日本企業の新卒採用の問題点と、今後の人材獲得競争に生き残るための処方箋を聞いた。
「採用学」とは何か
私が「採用」をテーマとした研究、「採用学」を立ち上げたのは、2013年9月のこと。もともとは企業と個人とのかかわり方、「企業と個人の心理的契約」を研究していた。企業と個人で価値観のズレなどによるミスマッチ、ボタンの掛け違いのようなことが起こるのはなぜかと探るうち、「入口の採用段階に起きている可能性が高い」と感じるようになった。
調べてみたところ、米国ではリクルートメント研究という分野が確立されている一方、日本では採用に関する研究がほとんどなされていないことがわかった。また、ちょうどその頃、数社の人事担当者から立て続けに採用についての相談を受けるという偶然も重なり、「採用学」という研究分野を起こし、研究者と現場との領域がかかわる場として産学共同の「採用学プロジェクト」(http://saiyougaku.org/)を立ち上げるに至った。
新卒採用3つの問題点
私は日本の採用活動の問題点は、「曖昧さ」にあると考えている。具体的には、以下の3点だ。
1.曖昧にされる期待
2.曖昧な能力評価
3.「曖昧さ」による活動の過熱化
1.曖昧にされる期待
大手就職支援サイトの会社案内ページには、「若い人も活躍できる職場です」「成長できる仕事です」などと学生たちの期待を高める前向きなコピーが躍っている。一方、雇用条件、労働環境、必要とされる能力要件などの情報は極めて限定的であり、初任給や福利厚生などは書いてあるものの、年収、配属先や業務内容など肝心なことはわからず、曖昧なまま入社するケースが一般的である。こうしたことは、中途採用が中心の欧米においても少なからず見られるのだが、日本においてはそれがより顕著なのだ。
新卒一括採用という形をとっている以上、仕方がない面もあるが、働く側にとって重要なことを曖昧にしたまま雇用契約がスタートしており、このことがミスマッチ、早期離職につながっていると考えられる。また、「曖昧な期待」を抱かせるということは、学生側が持つ企業や仕事への期待との摺り合わせをさせないということであり、大量エントリーの一因にもなっているだろう。
なぜ、このようなことが起こるのか。端的に言うと、企業側が「できるだけ母集団を多く集めたいから」である。「初年度の年収はいくら」「若手の登用はめったにない」などと正直に言うと、学生が集まらないと考えてしまうのだ。