OPINION 2 スタートは「どう生きたいのか」 人生を考える機会を土台に働く覚悟とプロ意識を育む
どう生きたいか、自分にとっての幸せとは何かを自分と対話すること。組織の一員として働く覚悟と、お客様や会社に貢献するプロ意識を持つこと。社会人の第一歩である新人研修において、その両方を意識づけることが、働き続ける原動力となる。人材開発の専門家として企業教育にあたる一方、大学でも講義を持つ富士ゼロックスの山崎紅氏が、企業はどのように考える機会をつくり、意識づけを図ればよいのか、指針を提示する。
新人研修に欠けているもの
新人が独り立ちし、働く自己(構え)を醸成していくためには、次の大きな2つの柱がカギとなる。1つは、どう生きたいか、自分にとっての幸せとは何か、そのために何をしたらよいか、自分と対話してじっくり考えることだ。もう1つは、働く覚悟、お客様や会社に貢献して対価をいただくプロ意識を持つことである。特に前者は、多くの研修の現場でおざなりにされているのが実情だ。それもわからなくはない。新入社員や若手には、早く即戦力となってもらいたいと、経営者も人材育成担当者も願う。いきおい、新人研修プログラムも、オリエンテーション、ビジネスマナー、会社組織や業務の説明が一通り行われ、後は配属という流れになりがちである。しかし、これまで企業で新人教育を担当したり、大学で講義をする中で痛感したことがある。それは、自分と真剣に向き合う場の少なさだ。これから社会に出る学生たちが「自分はどうしたい」ということをあまり考えていない。もちろん、就活は真剣にするし、働くモチベーションは多くの若者が持っている。入社後も普通に仕事はこなすが、本当は何をやりたいか見つからないまま、あるいは見失って悩む若手社員が少なくない。彼ら・彼女らを見るにつけ、職業という狭い意味ではなく、自分がどのようになりたいのか、じっくり自分と対話する必要性を強く感じた。働くことは人生のごく一部であって、全てではない。そう捉えれば、壁に突き当たっても煮詰まらなくて済む。今年私がまとめた『新人研修ワークブック』の第一章にこのテーマを持ってきたのも、こうした理由からだ。