調査レポート:JMA「日本企業の経営課題」 経営課題の本質は「人材の強化」 新しいものを生み出す実行力をいかにして育むか
日本能率協会(JMA)は2013年11月、「日本企業の経営課題調査」の結果を発表した。この調査は、毎年行っているもので35回目となる今回は662社から回答を得た。本稿では調査結果を紹介しながら、今回のテーマである「戦略と実行の推進」を踏まえ、人と組織を中心とした実行力の強化にフォーカスし考察する。
「人材」と「新事業」が上位不動の課題
日本の産業界では、アベノミクスによる円高是正効果もあり、自動車関連産業をはじめとする海外事業比率が高い大手製造業が先導する形で収益改善の裾野が広がってきている。業績も、概ね半数近くの企業がリーマンショック前の水準までに回復させている。一方で、中小企業やサービス業を中心とした、国内市場の縮小や消費税アップなどによるマイナス影響を受けやすい国内事業に軸足を置く企業では厳しい経営状況に喘ぐところが多く、業績回復はまだら模様という現状もうかがえた。グローバリゼーションの進展による世界的な社会・経済のパラダイム転換期の中、日本企業は新たな成長戦略を描き、価値ある事業のスピーディーな創出に注力している。今回の調査を通じても、今まさに次のステージに上がるための経営全般の見直しが行われていることが感じられた。それでは具体的に、日本企業の経営課題認識はどのように変化しているのか。また、経営目標を達成するための課題に対してどのような施策を講じているのだろうか。経営課題認識の結果(図1)を見ると、前年との比較で大きくポイントと順位を上げた課題が「現場力の強化」「品質向上」「高コスト体質の改善」「企業ミッション・ビジョン・バリューの浸透や見直し」である。日本企業の強みとされてきた“現場力”と“品質”に対する課題認識が高まった。また、「高コスト体質の改善」「企業ミッション・ビジョン・バリューの浸透や見直し」は、グローバル競争力の強化や企業の体力強化・体質改善への意思の表れと捉えられる。ちなみに、「グローバル化(グローバル経営)」が2012年と比較してポイント・順位とも下げる結果となったが、大手企業のみの結果分析では4位にランクされ重要度は変わらないため、「グローバル化」の他にも足元に多くの課題を抱える中堅・中小企業の認識が反映された結果と解釈している。経営課題認識の5年間の推移(図2)を見ると、まず1位が「売り上げ・シェア拡大」から「収益性向上」に変化した。売り上げ増大に注力することから、原価低減やコスト削減努力により収益確保へと関心が移った結果と言える。また、不動の3位と4位がそれぞれ「人材の強化」と「新製品・新サービス・新事業の開発」。イノベーションとそれを支える人材強化が重要な経営課題として認識され続けているわけだが、見方を変えれば、課題が解消されない悩ましい状況が続いているとも捉えられる。その他、図1・2から上位にランクされた経営課題を列挙すると、「財務体質強化」「顧客満足度の向上」「技術力・研究開発力の強化」「事業基盤の強化・再編(M&A・アライアンス・既存事業の選択と集中)」となる。なお、これらの課題の中で大手企業の中期的(3年後)な経営課題認識を検証したところ、1位が「人材の強化」、2位が「事業基盤の強化・再編」であったことを補足しておく。大手企業は、熾烈なグローバル競争の中、事業ポートフォリオの見直しによる収益構造改革や、M&Aなどの社外の経営資源獲得によるスピードを重視した成長戦略を経営課題として強く認識している。こうした結果から、大手企業はグローバル経済のリスク要因を、中堅・中小企業は国内経済のそれを注視しながら、競争力強化や企業の体力強化・体質改善などのさまざまな課題に取り組んでいるが、その中で最も重要な決め手となる課題が「人材の強化」との共通認識にあることが確認できる。将来が見えにくく、市場ニーズや競争相手も多様化している現状において、経営戦略は個別性が高く、常に見直しが必要な時代である。戦略以上に重要なことは、いかに実行して目標とする成果を獲得しえるか──すなわち、実行力の要である「人材の強化」こそ、各企業に共通した本質的な経営課題であると言えよう。