特別企画 KAIKA カンファレンス 第二弾 「能率」+「KAIKA」へ 新たな価値を生み出す“つながり”を求めて
30年以上続いてきた「HRD JAPAN(能力開発総合大会)」から、今年新たに生まれ変わった「KAIKAカンファレンス」。リニューアルの背景には、次世代組織をつくる運動として日本能率協会(JMA)が提唱する「KAIKA」の考え方がある。そこで今回は、KAIKAカンファレンスが生まれた背景やKAIKAの考え方、KAIKAにかけられている思いを紹介する。
ノウハウを提供するだけでは意味がない
──「HRD JAPAN」から「KAIKAカンファレンス」とした理由とは。
前田
私はカンファレンスを担当していますが、開催するにあたって、さまざまな人事担当の皆さんと話をする中で感じるのは、かつては事業の変化と人材育成のスピードが合っていたのに対して、最近では事業の変化のスピードのほうが速くなり、そこにギャップが生じているということです。そんな中、人材育成や組織変革のスピードを速めるニーズに応えようとするあまり、カンファレンスはノウハウだけを取り入れる場になってきていたように感じます。以前のような先を見通せる時代であれば、ノウハウ通りやればうまくできたのでしょうが、現在のように状況が複雑に絡み合い、先の見えない混沌とした時代には、ノウハウだけを取り入れてもなかなかうまくいきません。そこでカンファレンスを、一方的にノウハウを伝えるだけでなく、参加者の皆さんが事例やノウハウをいかに応用できるかを、共に考える場にしたいと考えてきました。そうしたリニューアルの方向性を考えている時に、我々の考えていることが、JMA内の別のグループが提唱していた「KAIKA」の考え方と一致することに気づき、思い切って「KAIKAカンファレンス」にリニューアルすることにしたのです。
“Connecting the Dots“
──その「KAIKA」の考え方とは。
山崎
働き方や価値観が多様化し、個人と組織、そして社会の関係が大きく変化しています。こうした変化を踏まえ、次世代の組織づくりの考え方、運動としてJMAが提唱しているのが「KAIKA」です。JMAではKAIKAを「個の成長と、組織の活性化と、社会との関係を同時に満たしていく運動」と定義しています。
長沼
KAIKAには、個人が開花すれば組織が開花し、時代や社会も開化する、という意味が込められています。ローマ字表記にしたのは、KAIZEN(改善)のように、ゆくゆくは世界に普及させたいという思いからです。
山崎
KAIKAの考え方の中で、我々が特に強調しているのは、組織の垣根を越えた「関係性」です。スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学でのスピーチで話した「コネクティング・ザ・ドッツ」の考え方が、我々の言う関係性をよく表していると思います。「ドッツ」とは複数の点。それには人・物・金・情報などの経営資源もあれば、知見やノウハウなどのソフトもあります。社内外に点在しているそれらの点を緩やかにつないだり、つなぎ替えたりすることで、創発や知の化学反応が起こるという考え方です。その時に、個人がワクワクしたり、成長したりすることによって、組織の活性化を伴いながらイノベーションを起こすことが、KAIKAの状態を表しています。
──そうしたつながりは、どのようにつくっていけるのでしょうか。
山崎
つながり方に定石やマニュアルがあるわけではありません。大事なことは、「社会的感度」を高めることだと考えています。普段から世の中の大きなうねりや、小さな兆候に対する感度を高めて、「ここをつなげてみようか」と試行錯誤しながら進めていくのです。マネジメント側からすれば、個人がつながりやすい環境をいかに整えてあげるか、ということが重要になってきます。
「能率」の先に「KAIKA」がある
長沼
JMAでは、「能率」の意味を、人についてはその能力を、設備についてはその性能を、材料についてはその機能を、それぞれ活かしきることを追求するマネジメント、と捉えてきました。それは科学的なアプローチであり、100%にどれだけ近づけるか、という発想です。そのことは今後の組織においても重要ですが、既存の枠を越えること、創発を生み出すようなことは、あまり想定されていません。そのため、我々は今、能率を超えてKAIKAへ、という発信に力を入れているのです。
山崎
能率とは、あらかじめ目標や計画を立てて、あるべき姿と現実とのギャップをいかに埋めていくか、というPDCAを回すマネジメントですが、そういう発想からはイノベーションはなかなか生まれにくいものです。現場で試行錯誤をし、さまざまな人や知見などとつながりを持つことによって、そこから予期せぬ何かが生まれる、といったケースがほとんどです。KAIKAとは、そういうものをもっと大事にしようという考えです。
前田
例えば、現在の企業はシニア層が抜けていき、初めから成果主義しか知らない世代が増えています。成果主義はまさに能率を重視した考え方であり、その中で皆キャリアプランを意識し過ぎる傾向があります。キャリアプランをつくり、その通りに進もうとするのではなく、あえて寄り道をし、キャパシティを広げようと考えるのはKAIKA的と言えます。
山崎
あるべき姿を描くことが不得意な日本人は多いと思います。欧米人には「私はこうなりたい」と発信して思考することが比較的得意な人が多いですが、日本人の場合、何年後どうなりたいかと言われると、何となく落ち着かない。むしろ、やるべきことをやって、それを積み重ねていった先に結果として成長があるという発想のほうがしっくりくるものです。それもKAIKA的な考え方と言えるかもしれません。