人材教育最前線 プロフェッショナル編 強い目的意識が支える変化を楽しむ挑戦
通信講座「進研ゼミ」をはじめ、教育事業を広く展開するベネッセコーポレーション。同社で人材育成の一翼を担っているのが人財部 人財開発課の野口悦子氏である。「誰にどう変わってほしいか、目的を考えれば、研修の内容ややり方も見えてくる」と語る野口氏は、常に挑戦し、新しい変化を求め続ける。「私自身、変化に対応するのが苦手。だから、その分、チャレンジの先には大きな成長があると信じている」。野口氏が取り組んできた数々の教育施策には、そんな自らの信条が表現されている。
子どもの視点に立って考えられる先生を育成
人財開発課の野口悦子氏がベネッセに入社したのは大学卒業後の2002年。「小さい子どもからお年寄りまで、あらゆる年代を対象とした事業展開をしているため、自分がどの年齢になっても興味がある分野が詰まっている会社ではないかと考えた」ことがきっかけだったという。入社後、赤ペンサービス部組織マネジメントセクションに配属されると、通信講座「進研ゼミ」の添削指導員「赤ペン先生」を対象とした研修やマネジメントを担当した。赤ペン先生は、子どもたちから提出された答案一つひとつにコメントを書いて返却する。そのため、赤ペン先生の研修では、子どもたちのやる気を引き出すコメントを考えてもらうための材料を提供したり、上手な先生のノウハウを他の先生に伝えたりする内容が中心だった。そうした中で野口氏は、配属直後から自然な流れで仕事ができたという。というのも野口氏は大学時代、アルバイトで塾のチューターをしていた。チューターとは、生徒の受講管理や学習に関するアドバイスなど、勉強を直接教える以外の場で生徒をサポートする仕事である。「大学を選び決める高校生は、言わば人生の節目。今、目の前にある情報だけでなく、いろいろな世界や大学があることを生徒一人ひとりと向き合って丁寧に伝えたかったので、あえて塾講師ではなくチューターを選びました」生徒の気持ちを考え、生徒に寄り添って学習への取り組みを支援するチューターでの経験を、赤ペン先生を通して子どもたちを支える仕事の中で生かすことができたのだ。そんな野口氏が手掛け、「研修は生ものだ」という先輩社員の言葉を体感した取り組みがあるという。子どもたちがよくつまずく問題を集めてダミー答案を作成し、子どもがどのような思考で、どのようにつまずくかを赤ペン先生に理解してもらう。そして、それを解決するためにどういったコメントをするべきかを一緒に考えるステップを、既存の研修に取り入れたのだ。「大人である赤ペン先生たちにとって、子どもがつまずく箇所やその理由を想像するのは難しいことです。そこで一度、子どもの思考回路に立ち、そこから先生の立場に戻って何をするかを考えてもらうようにしました」一方的に情報を伝えるのではなく、反応を見ながら進めると、先生たちの納得度も高くなった。それまでの研修の進め方とは違う手応えが感じられた貴重な経験だったと野口氏は振り返る。
社員が変われば先生も子どもたちも変わる
赤ペン先生の研修を担当しながら、一方で野口氏は、赤ペンサービス部の部員育成にも自主的に取り組んだ。赤ペンサービス部では、赤ペン先生向けのさまざまな文書を作成している。例えば、赤ペンのインク交換の手順から、答案が集中する時期のアドバイスまで、あらゆる内容を数十人の部員で対応する。