CASE.3 組織的に発想を変える 3年かけて実現 ワークショップの内製化
従来通りの発想では、顧客の潜在ニーズを見つけることができない――そうした中で、どうやって新しいサービスを開発すればいいのだろう。KDDI研究所が行っているワークショップは、こんな問題意識に駆られた1人の技術者の試行錯誤からスタートした。まさにその人、ワークショップ仕掛人であるKDDI研究所の研究マネージャー、新井田統氏に、内製化の苦労やノウハウなどについて聞いた。
●背景揺さぶりたい価値観
3年をかけてワークショップを内製化したKDDI研究所(埼玉県ふじみ野市)。ワークショップの特徴は、既存の価値観に揺さぶりをかけること。同社では、一体何を揺さぶりたかったのか。それには同社の主力事業である携帯電話の市場を知らなければならない。携帯電話が登場した初期、顧客となったのはハイテク機器に敏感で、新しい技術を好む層だった。しかし、携帯電話が生活の必需品になった今、日常の使い勝手のよさを求める層がメインとなった。こうした顧客の変化に合わせて、サービス開発の発想も変えなければならない。しかし、KDDI研究所の研究員(=社員)のような専門家にとっては、これまでの経験や専門知識が足かせになり、アイデアが出なくなってしまっていたのだ。社内にも2005年頃から、こうした問題意識は広がっていた。そこで、新井田氏は、3年間新しい研究の立ち上げに専念してよいという、同社の『特別研究員制度』を利用して、東京大学情報学環の研究生として社会心理学や認知心理学を学ぶことにした。その授業で、ワークショップに出会ったのだ。「授業で『ワークショップ』が紹介された時、ピンときたんです。実際に参加してみて、ビックリしました。それまでは、新しいアイデアの創造は、個人の能力によるものだと思っていました。でも、ワークショップはそうではなかった。思ったこともない方法でした」
●内製化のプロセス体験しながら学び取る
新井田氏は早速、東京大学大学院情報学環の山内祐平准教授(P48の安斎氏も山内研究室に属する)、水越伸教授、岡田猛教授と、KDDI研究所とでワークショップに関する共同研究を立ち上げる。2008年から2010年まで、3年をかけて、ワークショップのつくり方を一つひとつ学び取っていった。1年目には、言わば見習いとしてワークショップ設計の裏方を体験し、2年目には実施マニュアルを作成し、3年目にはマニュアルを用いて実際に自分で表に立って運営を行い、試行錯誤を繰り返す、といった具合だ。「トライアル&エラーの時期には、社内で公式に人を募集することは困難でした。ですから、まずは自分の知り合いの範囲で試行錯誤し、併せてワークショップを理解してくれる同志を1人でも増やしていくように努力をしていました」苦労したことは、ワークショップのプロが自然にやっているように見える、絶妙なテーマ設定や人選などを会得していくことだった。その辺りを理解するために、2008年に実施した「ケータイ葬送スタイル」ワークショップを例として紹介する(図1)。