CASE.1 NTTコムウェア 研修は組織を変える 社内のニーズに応えるために内製化を実現
NTTコムウェアでの研修内製化は、自然な流れで起こった。社内のニーズを聞き、課題を把握し、研修の理想的なデリバリーを考えた結果、外部に頼るべきところはありつつも、人材開発部が直接運営するという形がベストだとわかったからだ。そして、今では着任したばかりの人でも研修をつくることができるように、そのノウハウを共有している。どうしたら、そんなことが可能なのか、その考え方と仕組みを紹介する。
●はじめに研修で組織を変える
NTTグループのシステムインテグレート企業、NTTコムウェア(本社:東京都港区)。約5,200名いる社員の研修を取り仕切る、総務人事部の三尾和幸氏は、アイデアマンだ。研修の開始時にグループ内で行う自己紹介。三尾氏は、これに1分間の最近あったちょっといい話をつけ加えて、「Nice&New」と名づけている。このほうが記憶に残るからだ。実際朝礼でやっている職場も多い。ちょっといい話が加わることで仕事以外の顔が見え、場が和むのだ。
研修中は全員が笑顔を心がけ、スマイルバッジ(写真)をつけたチームの代表「スマイルリーダー」が、みんなの笑顔をチェックする。こうした研修の雰囲気づくりのために、「できない」「ムリ」といったネガティブな表現にはみんなでイエローカードを提示。「こうすればできる」など、ポジティブ思考の発言はグリーンカードでほめ合う。これらは、同社で行われるほとんど全ての研修に組み込まれている。その狙いは、組織全体の共通言語をつくること。今では、スマイルバッジを誇らしげに社員証のストラップにつけて歩く社員も多い。それだけではない。4年目研修の成果発表は、300人が入るホールで行い、全社巻き込み型のイベントに発展させた。課長研修では、実務で使える「課長業務虎の巻」を受講者自身につくってもらい、業務の効率化に貢献(本誌2012年11月号特集「管理職が元気な会社」を参照)。大小さまざまな工夫で組織に影響を与えている。それが可能なのも、研修が「楽しい」と評判だからである。とにかく三尾氏は、楽しさを大事にする。理由は明確。そのほうが、みんながやる気になり、よく学ぶからだ。「研修は、組織を変える」と言う三尾氏の研修のつくり方を紹介する。
●背景内製化するしかない
同社が内製化に大きく舵を切ったのは、三尾氏が総務人事部に異動した、2008年4月以降。その時点で、すでに2008年度の研修計画は確定済みだった。唯一、三尾氏に企画を任されたのが入社4年目社員を対象とする「4年目研修(当時。現・ネクストリーダー研修)」である。当初、4年目前後に離職率が上がる傾向があり、それを防ぐことが研修の目的だった。ところが、前年度のアンケートに目を通すと、90%は当たり前に超えるべき満足度が71%と、やや低い。また、アンケートの中にクレームのような意見(場所が遠い、目的がわからないなど)も散見された。研修をオブザーブしていても、受講生が仕事を引きずって研修に参加しているように見え、議論が盛り上がるまで時間がかかることなどが気になった。
実際、前年度の受講者10名ほどにヒアリングに行くと、研修の記憶はおぼろげ。「同期に久しぶりに会えてよかった」といった感想はあるものの、学習した内容は残っていない。そこで、研修のコンセプト(=方針)から見直すべく調査を開始した。調査方法としては、他社状況を調べると同時に、NTTグループ数社の4年目社員にヒアリングやアンケートを実施。社内では、4年目の上司に当たる人たちにヒアリング。「仕事ではテクニカルに寄ってしまうのでヒューマンスキルをやってほしい」「ベンダーの研修は事業部でもできるので、全社ならではのものを期待する」「視野を広げてほしい」といったニーズを把握した。研修受講予定の4年目社員たちにも希望を聞き、「日々の業務で身につかないことをやりたい」「事業部のことしか知らないので、他の組織のことを知りたい」といった要望を吸い上げた。こうした丹念な調査から、コンセプトを「将来リーダーとして業務を担うための出発点としての基礎固めの場」と決定。コンセプトに合わせて研修の名前も「ネクストリーダー研修」と命名した。
問題は、それをどう実現していくかだ。コンセプトを形にしていくことも大事だが、アンケートに寄せられた不満を解消し、積極的に取り組んでもらうためには、「研修に来るのが楽しみ」という状況を前もってつくり出さなければならない。そのためには、ベンダー任せではなく、事前の上司・本人へのフォローから、会場選びまで、もっときめ細かい配慮が必要になる。そこで、ベンダー主導ではなく、運営を自分たちで行うことにした。