CASE.4 YKK 変わらぬ「土地っ子になれ」の精神 真に公正な人事制度の構築をめざして
1960年代から本格的に海外進出を図り、現在、世界71カ国・地域、3万9,000名の従業員を擁するYKKグループ(AP事業なども含む)。その成功は同グループの理念に支えられている。今後、真の国際企業をめざし、さまざまな国・地域の人材が行き来できる体制を整え、世界中の力を結集してファスナー生産量のさらなる拡大をめざしていくというYKK。そのカギを握るグローバル規模での人材育成と評価制度をどう進めているのかを聞いた。
国際化推進の背景は危機意識
世界の縫製工場は常に移動している。ファスナーをアパレル業界に供給するYKKは、自らも顧客メーカーのグローバル展開と行動を共にしていき、今や71カ国・地域に拠点を持つ国際企業となった。現在、YKKは世界で年間75億本のファスナーを販売しているが、2016年度までに100億本の生産をめざしている。「100億本を販売できなければ、YKKは将来、世界で競争力を失うという危機感があります。そのためには、グローバルな規模で人材を育てることが必要です。今、それができるかどうかを突きつけられていると思っています」と、人事部長の寺田弥司治氏は言う。
これまでのYKKの強みは高価格帯・高付加価値のファスナーだったが、販売本数を伸ばすためには、ボリュームゾーンやファストファッションの対応を強化していかなければならない。それらの生産基地である中国を中心としたアジアでの拡販をどのように実現するのか。今、YKKが取り組むのは、海外現地社員も含めた、100億本の販売を実現できる人材の育成である。かつてYKKには、海外雄飛の夢を抱く若者たちがどんどん入社し、2~3年の後には各国・地域の現地会社を切り盛りしていった。その文化は今でも息づいているが、日本国内の希望者だけでは、もはや足りない。海外会社で採用した現地社員を教育して送り込むことも推し進めていかなければならない。それ故、各国・地域の社員も育てていくことが人材輩出の柱となる。「そのためにグローバルな人材育成の制度づくりを、この5年でやり遂げます」(寺田氏、以下同じ)
世界で活躍する人材が育った理由
YKKはグローバル企業ではない。だから海外で人材が育っていった──このパラドックスこそ、同社の理念の根幹にかかわる部分だ。「本社の主義主張を他の国へ持ち込むのがグローバル企業だと理解しています。私たちは、そうではないのです」グローバルに事業を展開しているけれど、強いていうならめざしてきたのは、「真に国際的な企業」だという。もともとYKKには「森林経営」という考え方が根づいている。経験を積んで年輪を重ねた太い木も、若くて細い木も、背の高い木も、低い木も、それぞれが自らの力で根を張って全体で豊かな森をつくっているという意味だ。企業もまさしくそうで、多様な個が自律することで健全な営みが生まれるのだ。
創業者の故・吉田忠雄氏は、全員が経営者であり、平等である、と語っていた。それは、「株は事業の参加証」という考え方からもわかる。社員一人ひとりが経営者である以上、株も社員のものだというのだ。YKKは今でも上場しておらず、筆頭株主は、社員持株会となっている。YKKは、こうした考え方を海外展開する際にも貫いた。当時は、まだ日本本社を現地会社より上に見るのが当たり前だった時代である。海外も日本も全員平等であるとする考えの端緒となったのは、1965年の役員会。吉田忠雄氏は次のような具体的な方針を示した。
•社員は現地に永住する覚悟