第18回 特別編|「ポストコロナ社会のワーク&ラーニングスペースを考える」 稲水伸行氏 東京大学大学院 経済学研究科 准教授
どのような空間ならば、「学び」は促進されるのか。
オフィス学を研究する東京大学准教授の稲水伸行氏が
企業のオフィスや研修施設をめぐり、学びを促進させる工夫を解説する本連載。
今回は特別編と題し、これまで訪れたオフィス、研修施設を振り返る。
前身となる「企業の研修施設に突撃!研修効果を高めるラーニングスペース」(月刊『人材教育』掲載)を含め、これまで計24回にわたり、先進的なオフィスや企業の研修施設など、学びを向上させる様々な事例を紹介してきた「ワーク&ラーニングスペース最前線」。今回は特別編として、あらためてオフィス学における「3つの機能」の観点からこれまで取り上げた施設を振り返るとともに、今後のオフィスと研修施設の在り方について稲水伸行氏に聞いた。
オフィスや研修施設に求められる「3つの機能」とは
オフィスや研修施設に求められる「3つの機能」として、①「手続的機能」(Instrumental Functions)、②「シンボル的機能」(Symbolic Functions)、③「審美的機能」(Aesthetic Functions)があります(図1)。
①「手続的機能」は、目標としているパフォーマンスに向けた、様々なプロセス(手続き)をサポートする機能です。研修施設であれば、「学習効果」が最終的に目指すところとなります。
執務をするオフィスと、仕事の場面から離れたところで学習する研修施設とでは、そもそもの目的が異なりますが、近年ではいずれも「交流の場」としての役割を強めています。
②「シンボル的機能」は、組織文化や組織アイデンティティを表す機能です。たとえば、研修施設の外観や内部に、ロゴや企業の創業時からの歴史や文化を表象・展示することなどが挙げられます。
③「審美的機能」は、デザインや装飾性が、研修を受ける人や働く人の感覚的経験に影響を及ぼす機能です。特定の場所に対する愛着心などとも深くかかわってきます。
この3つの機能を踏まえて、特に印象に残ったオフィスと施設について解説していきます。
3つの機能が表す場の特徴
オフィス、研修施設がもつ特徴はこの3つの機能のうち1つだけとは限りません。たとえばAGC「AGCモノづくり研修センター」(2018年1月号掲載)は、②「シンボル的機能」と③「審美的機能」が際立った研修施設です。ガラスメーカーということもあり、研修施設の随所に「ガラスに関する豆知識」が展示されています。来館した人が、同社の事業内容や歴史を理解するうえでも非常に役立つものです。