連載 調査データファイル 第66 回 外食産業の雇用
有名チェーンから、個別のお店まで、外食産業と言っても様々あるが、この産業、非常に離職率の高い傾向がある。人気職種に見られがちだが、実際の仕事に関しては不平不満が多々見受けられる。なぜ、そのような事態が起きてしまうのか。調査データを見てみると、労働条件などに問題があることが明らかになった。
1. 高い離職率
私はかつて大学でゼミを担当していたため、その当時の卒業生が、今も多様な産業で活躍している。それらを見ていくと、卒業してから最初に就職した企業を辞め、転職する学生も多い。転職率がどの程度高いかを知るには、雇用保険のデータを調べるとわかる。
専門家の間では、「7・5・3」と呼ばれており、入社3年後に中卒は7割、高卒は5割、大卒は3割辞めるというのが、近年の傾向である。
実際、2001 年に卒業した高卒者と、大卒者の3年目までの離職率をみた図表1によれば、高卒者は1年目が25.9 %、2年目が14.0 %、3年目が9.1 %となっており、3年間の合計は49.0 %となっている。大卒者に関しては、1年目が15.2%、2年目が11.3%、3年目が8.9 %となっており、3年間の合計は35.4%となっている。
また、私が教えたゼミ卒業生の離職状況に関して、興味深い事実がある。それは、離職者が出たという情報がないのが銀行業であり、全員辞めて転職したというのが外食産業であるということだ。何人かに離職理由を聞いたところ、“賃金が安い”という理由で離職した者はいなかった。“労働時間がやたら長すぎて能力が伸びず、疲れるだけだ”と言う回答が大半で、最近流行の言葉でいうと「キャリアが見えない」ということである。
銀行業は、サービス残業が多く、労働時間も長いと言われている業界ではあるが、給与水準がかなり高く、出向・転籍で外に出される50歳代前半までのキャリア形成は、それなりに安定している。これに対して、外食産業は、労働時間が長い割には給与水準が低く、キャリア形成も見えにくいといった傾向が強い。つまり、この会社で5年間働いていても、一体自分はどういう人材になるのかということが、全く見えないのである。
「キャリアが見えない」というのは、何も外食産業に限ったことではない。有名百貨店に勤めた女子卒業生によれば、「1年間勤めて能力アップしたか」を尋ねたところ、「足が太くなっただけです」という答えが返ってきた。職場には、お局様みたいな先輩女性がいて、「あなたの仕事はこれよ!」と言って雑巾を渡され、毎日ショーケースの雑巾掛けをしていたとのことであった。