セッション概要1 B セッション 経営と人事・人材戦略 ~経営をサポートする人事の役割~
HRD JAPAN 2007 第26 回能力開発総合大会では、Bセッション“経営と人事・人材戦略”として、2月7日から9日までの3日間にわたって、さまざまな企業の取り組み事例の報告とパネルディスカッションが行われる。
新しい経営・事業環境に対応した
人事の役割と課題とは何か?
人事・人材開発部門を取り巻くパラダイムの変化
人事は、さまざまな意味で、変化の時を迎えている。
HRD JAPAN 2007のBセッションのコーディネーターを務める慶應義塾大学の花田光世教授は「企業は既存の流れとは異なる構造的な変化が起こっているという認識を持つことが大切になってきている」と語っているが、これからの人事・人材開発の役割を考えるうえで、この視点はたいへん重要なものになっているといえるだろう。
たとえば、戦後の経済成長の中で日本企業がつくりあげてきた成長モデルは、量的拡大とコスト効率性の追求の中で形づくられていったといっても過言ではない。これが戦後の高度経済成長に貢献し、非常に高い評価を得た成功モデルと考えられてきた。
この成長モデルのなかで、人事は人的資源を取り扱う非常に重要な部門として、組織の一貫した効率性を追求するために大きな役割を果たしてきた。
長期的な視点で眺めれば、1970年代後半~80年代初めにかけての高度経済成長時代は終焉し、新しいパラダイムに入ったが、このころから、企業組織のありようの試行錯誤が続き、今日に至っているといっても過言ではない。
このパラダイムの変化を端的に表現すれば、たとえば効率性や規模の拡大と逆の関係にあるイノベーティブネスが重視されるようになったことである。この点では、イノベーションが非常に重要な経営戦略課題になっているにもかかわらず、人事の仕組みがそれに対応できないというのも、人事・人材開発部門の課題の1つといえるだろう。
また、終身雇用の見直しにより、雇用の流動化が加速され、従来、多くの人々が企業に対して持っていた雇用保証のイメージが大きく崩れ、自分でスキルを身につけるとか、専門能力を開発して会社を移動し、自分を高く売ったほうがよいというメンタリティに変わってきた。従来、人事部は、一括採用、終身雇用、ジョブ・ローテーション、キャリア開発、昇進人事、昇給などを核にした枠組みの中で思考し活動してきた。しかし、こうした労働市場の変化にともなって、従来発想では人事が従来のように組織を支えきれなくなってきたことも、パラダイムの変化の1つだ。
さらに、人事の仕事は、新卒一括採用と終身雇用を前提に、比較的長期的な課題と受け止められてきたが、変化の速いビジネス環境の中で人材の育成と活用が、短期的な業績や成長にも大きな影響を与えるようになり、機動的で柔軟な人事施策が求められるようになったことも、人事・人材開発部門の大きな課題になっている。
これからの人事のあり方と課題を考える
こうした変化を別の視点から見れば、人事・人材部門のコミットメントが企業固有の理念・価値観に裏打ちされた独自の経営戦略の創造と実現に、たいへん重要な役割を果たすようになってきているということでもある。
HRD JAPAN 2007のコーディネーターの1 人である早稲田大学の寺本義也教授は、この点について、「これまでの人事部門は、ライン(現業)部門との連携、コーポレートとの連携をあまり考えなくともよい、自己完結型の組織としてつくられてきた。その慣性をなお引きずっているが、それを脱却して、新しい環境に対応した人事・人材開発モデルを構築することがたいへん大きな課題になってきている」と話している。
今日、多くの企業の人事・人材開発部門が抱えている課題や、取り組みは、こうした問題意識・課題意識の中で捉えることが重要だというのが、花田・寺本両教授が共通して強調している点でもある。