企業事例 オリエンタルランド ハピネスという感動を提供するために 明確なモデルの提示と 現場と本社の一体感が 高いサービスを実現する
来場者数約2500 万人、リピーター率90 %以上。オリエンタルランドは一体なぜ、ゲストたちからこれほど高い支持を得ることができるのだろうか?
ここでは同社の教育の根本姿勢と教育を支える代表的な仕組みに注目し、オリエンタルランドの人材育成の秘密の一端をひもといてみたい。
わが社の製品は、感動そのもの
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド。同社が“ゲスト”と呼ぶ来場者1人ひとりに感動を提供し、多くのファンを獲得していることは周知の通りである。複数の調査によれば、長年にわたってリピーター率90%以上という驚異的な数字を上げており、2005年の来場者数は約2476万人(2 パーク合計)。この数字は、日本の人口の約1/5 に当たると聞いても、多くの人が納得するだろう。
「弊社の製品は“ハピネス(幸福)”。ゲストの方は1 日パークにいて、楽しかったと思える、感動や喜びを体験する。その体験を提供してさしあげるのがキャストの仕事」と、人事部・キャスティング部担当の鈴木茂氏は語る。何か物を売ったり、サービスを売る手順としてハピネスがあるのではなく、ハピネスが商品そのものであるため、「目に見えない感動をどうつくるか、どうしたらゲストに楽しんでいただけるのか。1人ひとりがそれを常に考えなければ成り立たない」と続ける。したがって、オリエンタルランドの教育では、まず、この考え方を伝えることが重要になる。鈴木氏はくり返し、「パーク運営というと、細かいマニュアルが決まっていると思われがちです。もちろん、飲食店でコーヒーの入れ方・運び方・オーダーの確認の仕方などの手順は決まっていますし、それは教えます。しかし、ゲストとの“触れ合い方”に関するマニュアルはない」と強調する。「考え方」は、マニュアルや知識を教えても身につかない。また、その考え方を理解しないで、形だけのサービスを実践しても、“ハピネス”という感動は提供できないのだと、鈴木氏は語る。
「考え方」を伝えるために「体験」を重視する教育の工夫
では、このサービスの根幹を教えるために、同社ではどんな教育を行っているのだろうか。
ポイントの1 つ目は、ハピネスの内容をよりわかりやすい言葉で伝えることだ。すなわち、新入キャストが理解すべき「内容の明確化」である。これをディズニーでは、「SCSE」というサービス原則として提示している。SCSE とは「安全(Safety)」「礼儀正しさ(Courtesy)」「ショー(Show)」「効率(Efficiency)」という4 つの言葉の頭文字をとったもの。そして重要なのは、これらがそのまま、キャストが守るべき現場での優先事項も示しているということだ。
すなわち、どんなときにもゲストの安全を最優先すること、次にゲスト1人ひとりをVIP としてお迎えする精神を守ること、3つ目にショーを成立させるクオリティを守ること、最後に効率性(待ち時間短縮など)を重視することの順位である。
この根幹となる考え方とサービス原則を伝えるためには、「考え方を知識として教えるのではなく、『体験してもらう』ことを重視しています」と鈴木氏は語る。ディズニーに入社したすべてのキャストは、最初にディズニーユニバーシティで研修を受ける。この研修のトレーナーは、パーク内でゲスト(来場者)と日々接しているキャストが務める。ここでトレーナーは、入社したキャストを“ゲスト”として迎え、ゲストに接するようにおもてなしし、ここで働くことの楽しさや価値について語る。つまりここで、まず最初に、“ゲストが受けるのと同じ品質のサービス”を、これからキャストになるすべての従業員に体験させるわけだ。
研修では、トレーナーに導かれて、運営中のパーク内にも立ち入りサービスを実践するキャストの姿、ゲストの笑顔を実際に見る。研修室の中で語られたエピソードを、五感を使って、理屈ではなく心で感じさせるのだ。
「このツアーによって、自分たちがどのようなことを求められているのか、自分たちが提供すべきサービスのモデルは何かを理解してもらう」と鈴木氏は語る。