「お客様第一主義」の 実現に向けて教育の果たす 役割とは何か?
「お客様第一主義は企業にとって当然の姿勢。お客様の支持を得なければ企業は立ち行かない」経営トップがこのような発言をするのは当たり前といってもいいほど、現在では「お客様第一主義」は浸透した考え方となった。お客様第一主義に関する小冊子をつくって全従業員に配布し、携帯させるという企業も多い。ところが昨今、食品メーカーのずさんな管理体制が露呈した事件や、偽装表示事件、リコール隠し問題、耐震偽装事件など、さまざまな企業の不祥事が明らかになった。このような事件を人材開発の観点から見たとき、1つの共通点が浮かびあがる。それは企業の中に早くからCS 担当部門がありながらも、お客様満足を基盤とした人づくりが成されておらず、お客様満足が企業風土・文化にまで醸成されていなかった。つまり、お客様満足が根付いていなかった、ということだ。もう一段かみ砕けば、「CS 人材」がまったく社内に育っていなかったということになる。先述のような企業は極端にしても、CS 経営をかかげ、CS 教育を導入したものの、うまく機能していない、社内に根付かない、といった話をよく耳にする。こうした状況に対し、人事、人材開発部門は何ができるのだろうか。
人事、人材開発部門にとっての「お客様」とは誰なのか?
CS経営を推進する企業において、人事や人材開発部門が果たす役割とは何だろうか。その役割を考えるにあたって大切なポイントは2つある。1つは、「企業内でみれば人事、人材開発部門にとっての最大のお客様は、従業員である」という認識をしっかり持つことだ。
この考え方は、人事、人材開発部門に限らず、法務や総務など、いわゆるコーポレート部門にはいずれも当てはまるものだ。コーポレート部門の最大の“お客様”とは従業員……もちろん、そこに「経営陣」を入れてもよいだろう。この全社員がお客様第一主義(CS経営)を貫けるような、さまざまな施策をどのようにできるかである。
この考え方を大前提として、人事、人材開発部門がすべきことは何か考えてみたい。それはすなわち、従業員のニーズに応える教育や人づくりの仕組みを構築しているか、提供しているかという問いかけにつながる。
実際、高いレベルでCS を実践している企業、たとえば花王などでは、人材開発部門が頻繁に現場に出かけている。現場がどんな教育を求めているのか、自身の“ビジネスニーズ”をキャッチするため、インタビューを行っているのだ。そしてその結果から見えてきた現場の要望に応える企画を考え、提供しようと努力している。
ところが一般には、頻繁に現場に足を運んでいる人材開発部門はほとんどない。「頭ではわかっているが、実行できない」のはよく理解できるが、「CSがうまく根付かない」「教育はやっているのに現場が実行してくれない」と思っているのなら、まずは現場に足を運ぶことを実行する必要があるかもしれない。
そのためには、現場の仕事を徹底的に理解することが重要である。つまりまずは企業内の現場の“顧客を知り抜く”ことである。さらに、その顧客(現場)が抱える課題とは「仕事における成長機会」であり、この成長機会をしっかりと探り出し、実践的な育成プログラムにしていくことが人材開発部門に求められるのである。
その姿勢こそが、人材開発部門としての「CSの実践」につながるはずだ。
経営がお客様第一主義を理解し、コーポレート系が理解し、次に現場のミドルマネジメントが理解し、現場を支えていく。こういった体制を築くことが、CS マインドを社内に浸透させ、CS 人材を育成していくには欠かせない。人材開発部門としての最初の一歩は、現場のニーズを現場との対話によって正しく知ること。これに尽きるのではないだろうか。