巻頭インタビュー 私の人材教育論 拒絶は何も生み出さない まず聞くという 姿勢を持つことが大切
トップから社員1 人ひとりに至るまでお客様満足の向上に取り組む徹底したTCS 活動で3 年連続“携帯電話サービス顧客満足度No.1”を達成しているau。
全社にCS 意識を醸成した小野寺社長に、その風土づくりについてお伺いした。
顧客満足度No.1の実現は徹底したTCS活動の成果
── KDDI の主力事業である携帯電話auは、携帯電話サービスお客様満足度№1を3年連続で獲得されています。昨年は、全国を9地区に分けて実施されるこの調査で、ついに全地区で1位だったと伺いました。素晴らしいですね。
小野寺 正
(※以下、小野寺とする。敬称略)
だからこそ気が抜けない。お客様の期待値が上がっているからこそ、それを裏切ってはならないと、私は機会がある度に社員に話しています。
── 全社で取り組むTCS(Total Customer Satisfaction)活動は、小野寺社長の強いリーダーシップがあってこそ、と伺っています。今やどの企業もCS 活動に注力していますが、2003 年にキックオフ、その翌年の顧客満足度調査で第1位と、これほど早く成果をあげられた企業は多くありません。そもそもなぜ、小野寺社長はTCS活動が必要だと思われたのですか?
小野寺
恥ずかしながら、私がCS 活動の重要性を痛感したのは5年程前に過ぎないのです。私は技術屋でしたから、以前はマーケティングの必要性どころか、その概念も持ち合わせていませんでした。
というのも、かつての通信業界は、装置が整えば商売になるといった設備産業でしたから、技術さえしっかりしていればお客様は黙っていてもついてきてくださったのです。1985 年に電気通信の自由化が実施されて我々が新規参入したわけですが、当時の通信料金はNTT との価格差が大きく、価格で競争すれば会社経営は成り立っていました。
ところが、経営環境の変化や競争の激化に伴って、それだけでは利益が期待できなくなり始めました。そんな中、1990 年代の初め頃だったと思いますが、海外の技術者と意見交換をしている中で「君の会社にはマーケティングのセクションはないのか?」と問われましてね。私は、そこで初めてマーケティングに関心を持つようになったのです。とはいえ、CSまでには意識が及ばなかった。
── しかし、マーケティングの重要性は認識されるようになったのですね。
小野寺
同時に、デザインに対しても関心を持つようになりました。それは、競争が激しくなれば家電業界同様、いずれ通信業界も機能や価格の競争から製品が表現するメッセージやブランドが重視されるようになるだろうという危機感を持ったからです。
その技術を使って何ができるか
── 社長に就任されたのは、2001年6月でしたね。
小野寺
DDI、KDD、IDOの3社が合併してKDDI が誕生したのが前年の10月でした。
── 社長に就任されて、「au design project」を立ち上げられています。
小野寺
1998年頃だと記憶しているのですが、端末機のメーカーの方との意見交換の中で、発注側である我々がデザインしたものであれば、メーカーの技術者は要求になんとか応えようと努力すると聞きましてね。メーカーのデザイナーの要望に対しては、「それは技術的にできない」と答える技術者も、発注側が「これでなくてはだめだ」といえば動くと言うのです。このことが頭にあったので、それならメーカー側に同じようなデザインばかりでつまらないと文句を言うより、我々がクリエイターとプロジェクトを組んで斬新な作品を提案しようと考えました。
── 新たに創設したマーケティングのセクションでこのプロジェクトをスタートしたそうですね。
小野寺
マーケティングとデザインに注力しなければ、当社の未来はないと確信していたからです。これまでもお客様に技術力を訴えて失敗したことがありましたから、どうしてもマーケティングは必要だと痛感していました。
── 失敗、ですか。
小野寺
1999年、携帯電話の新しいサービスであるcdmaOne を全国展開し、通信速度を64kbpsにすることができました。通信速度がそれまでの6 ~ 7 倍になったわけです。これなら売れる、我々はそう確信してcdmaOne 対応型の端末を市場に投入しました。ところが、お客様にはまったく反応していただけなかった。速くなった通信速度で何ができるか、我々は何もお客様に提示できていなかったからです。失敗は、まさにマーケティングを無視した“技術ありき”の結果でした。私は、これに打ちのめされたのです。