TOPIC 2006 ASTD State of Industry Report より 人材育成の投資バランスから学ぶもの
人材育成投資減税の制度がはじまって約2年。各企業とも、人材育成投資についてのベンチマークが欲しくても、なかなか手に入らないというのが現状だ。
そこで、平成19 年2 月8 日に行われたHRD JAPAN 2007 のプレゼンテーションセミナーで、中原孝子氏が発表した2006 ASTD State of Industry Report の考察について、氏に寄稿していただいた。
人材育成投資に関するベンチマークを探る
経済産業省が人材育成投資減税の制度を実施し、日本における企業人材の育成に対する支援政策をはじめてから約2 年。経済の上向きなトレンドが見えてきたこと。2007 年問題といわれる大量の“団塊の世代”の退職。そして、バブル崩壊後、ほとんど人材育成の投資を受けてこなかったミドル世代の育成の急務など、さまざまな社会環境の要因ともあいまって、人材育成の包括的アプローチや、長期的な戦略が今まで以上に課題となっている企業が多いのではないだろうか。
「次世代リーダーの育成」「目標管理制度下のプレッシャーの中でも、人材育成が大切な自分の職務であることを理解し、実行することができるマネジャーの育成」「技術イノベーションを可能にする人材・組織の育成」「モチベーションマネジメント」等々、複合的な課題を抱え、その戦略の策定や実施方法の選択を含め、企画に苦労している人材開発部や人事部の方々の声をよく聞く。
特に、他社事例やベンチマークが欲しいと言われることがよくある。たとえば、「どのような企業が、どのくらい人材育成予算を投入していて、人材育成施策のポートフォリオはどうなっているのか」「効率的・効果的な人材育成の指標になるものはないか」「人材育成部門の仕事の成果を説明するためのデータとしては、何を示すのが良いのだろうか。またそのことの他社比較をしたいのだが」などが挙げられる。
人材育成投資に関してのベンチマークデータが欲しいとき、企業によっては、独自にヒアリングを実施してベンチマーク企業のデータを収集したりしているようであるが、「人材育成投資ベンチマーク」または「人材育成
ベンチマーク」などのキーワードを入力しても、個々のコンサルティング会社で実施している、組織診断からのデータがあるものの、中立的な機関から提供されている「指標」と、それに対する企業群のデータというものは、ほとんど手に入らない。
そこで、グローバル企業のデータとして、ASTD が毎年発表しているのが“State of Industry Report”になる。
今年も、2006年度レポートがこの1月に発表された。今回は、そのレポートのデータからの考察を紹介したい。
人材育成投資の比較
ASTD のこのレポートは、ベンチマークフォーラム企業(27企業、平均従業員数70,400 人、平均年間給与総額US$4,513,000)とベスト企業(アワード受賞企業39 企業、平均従業員数60,400 人)とベンチマークサーベイ企業(281企業、平均従業員数
8,200人、平均給与総額
US$403,000)の企業からのデータをもとに作られたレポートになる。
また、アメリカベースのグローバル企業だけではなく、ヨーロッパやアジアの企業も参加している。人材開発投資の比較データ、ラーニング投資と位置づけている学習(組織・人材育成)比較指標項目は、大きくは投資額での比較指標とHRD 効率での比較指標に分けられている。
【人材開発投資(投資額での比較指標)】
●従業員1人当たりへの支出
●研修時間/従業員
●給与支払総額に対する割合
●収益に対する割合
●利益に対する割合
●研修補助金の割合
●外部サービス利用率
【ラーニング投資(HRD効率での比較指標)】
●従業員数/HRD スタッフ(HRDスタッフ1人当たりの平均研修対象従業員数)