My Opinion ―③ 新EAP と新ES を統合する 新しいサポートサービスで 実現させる日本型EAP
日本の企業ではEAP =メンタル問題と解釈されがちだが、本来の意味でのEAP を考えるのであれば、心の病の克服以前の予防的対応が重要であろう。
この視点から見ると、個々のライフスタイルやライフキャリアを追求・実践することが大切で、それには新しい考え方のES を含めたEAP が必要となってくる。
日本の企業におけるEAP の展望について、花田光世氏に寄稿していただいた。
日米でのEAP の違いはカウンセリング風土の違いにある
人事の世界でEAPといえば、メンタル問題と理解されている。EAP はEmployee Assistance Program(従業員支援プログラム)の略。米国で積極的に採用されている従業員サポートのプログラムであり、法的な強制力はもたないものの、米国の大企業のほとんどで、導入済みのプログラムである。
EAPの主たる目的は、従業員の精神的、身体的健康に焦点をおき、直接的、間接的に作業に影響を与える諸問題の処理とされている(『EAP(従業員支援プログラム)アメリカの産業カウンセリング』J・ルイス、M・ルイス、1997)。たとえば企業が提供する、アルコール中毒、麻薬中毒、生活破綻、ストレスマネジメントなどのサービスや、従業員のウエルネスや健康維持にかかわるサービスも含めた、総合的なサポートサービスともいえる。
このEAP問題では、日米のカウンセリング風土の違いを理解することが重要になる。日本のEAPは、メンタル不全にかかわる問題が起こったあとの、対応型サービスが中心だが、米国の場合、問題が起こる前の予防的対応、またその芽、兆候を早期に発見するサービスの部分も重視されている。
これには、米国におけるカウンセリングサービスの位置づけを、理解しなければならないであろう。要は日本に比べて、米国のカウンセリングサービスは、「身の回りに日常的に起こる各種悩み事に対する相談機能」という位置づけが極めて強いという特色がある。深刻な問題になる前に、自分で何かおかしい、調子が悪いという変調を感じたら、気軽に、気易く相談する悩み事相談機能である。そのサービスの一環として、マリッジカウンセラー、親学カウンセラー、家族問題カウンセラー、そしてキャリアカウンセラーなどがサービスを提供している。
つまり、米国におけるEAPでは、必ずしも発生したメンタル問題への対処というだけではなく、その前段階での多様な相談機能、多様なカウンセリングサポートサービスが存在しているのであり、それがあってEAPがサービスとして機能している。
従来型EAPは悩み事相談機能が欠如している
翻って日本の現状を考えてみよう。EAPとはメンタル問題、すなわち、問題が起こった後の対処という理解が一般的であり、この問題の予防的な「多様な悩み事相談機能」が欠落しているのが現状ではないだろうか。
従来、その機能はEAPとしてではなく、企業の現場活動の中で、補完的に対応してきたと考えられる。上司・同僚、組合活動、さらには現場人事の相談サービスなどが、この「多様な悩み事相談機能」の受け皿となっていた。職場でのコミュニケーションが円滑に機能し、上司が部下の日常の問題にしっかり対応でき、現場人事が問題の芽を早期に発見できるような、日常のサポートサービスがしっかりと動いていたからこそ、問題を早期に発見し、EAPサポートサービスの前段階として機能し、問題の早期発見のメカニズムとして活用することが可能であった。
ところが、現状はどうであろうか。上司がプレイングマネージャー化し、ノルマ管理に追われ、1人ひとりの部下をきめ細かく理解し、サポートすることが困難になってきている。現場人事も、人事機能のさらなるアウトソーシング化、間接部門の縮小傾向は続き、人員枠を大幅に削減され、現場の問題をきめ細かく拾って歩くことが困難になってきている。
一方、職場内のきめの細かいコミュニケーションも、職制から離れた多様なプロジェクトチーム活動のより一層の進展や、あるいは組織内で互いにサポートしあう、ヒューマンインターフェース型のきめの細かいコミュニケーションの仕組みが変化してきている現実がある。