My Opinion ―② 企業価値を高める メンタルヘルス対策
“働き盛り世代の精神的な健康が悪化している”とのニュースが多くなった。
職場を担う世代でもあるこの層のメンタルヘルス対策は、多くの企業にとって切実な問題の1つである。外部EAP として、長年多数の企業をサポートしてきた神田東クリニック院長である島悟氏に、外部EAP の活用法と、パートナーシップを構築する上での企業のスタンスについてうかがった。
関心の高まるメンタルヘルス しかし対策は途上?
近年、心の問題を理由に休職する人が増えている。新聞報道によれば、全国の休職者数は47 万人(2006年7月)。これらの人々の賃金ベースでの損失は、年間1 兆円に上ると試算されている。日本能率協会の調査によれば、従業員のストレス耐性は低下傾向にあり、年々ストレスに弱い人が職場の中に増えているという。
2006 年4 月に労働安全衛生法が改正されたことも追い風となって、従業員のメンタルヘルスに対する関心が急速に高まってきた。たとえば日本IBMでは、5 ~ 6 人のグループで職場のストレスを共有し、同時に産業医によるストレス教育も行うという試みを、昨年からスタートさせた。
また、東京電力では、社員扱いの看護師50人を支社・支店に常駐させ、月1 回以上は精神科医師による相談を行うという。
1990年代からメンタルヘルス推進体制を構築してきたマツダでは、2000年以降、コミュニケーションに着目した各種セミナー、意識向上キャンペーンなどを行っている。
昨年12月、製薬メーカーであるグラクソ・スミスクラインは、人事担当者向けに「職場のメンタルヘルスケアセミナー」を開催した(『人材教育』2007年2 月号P118 に掲載)。東京・大阪会場ともに予想以上の大盛況で、このテーマへの関心の高さを裏付ける結果となった。またセミナー参加者へのアンケートからは興味深い実態が浮かび上がった。
参加者434 名中、アンケート回答者は368 名。企業属性は、従業員数1000名以上が41 %、101 ~ 999 名が36 %であった。その結果、「貴社でのメンタルヘルス対策の重要性」に関しては、「非常に重要である」が37.2 %、「やや重要である」が36.4%、「どちらかといえば重要」が19.0 %で、「重要である」との回答が全体の90%を超えた。
しかし、各社のメンタルヘルス対策の現状について聞いたところ、「やや対策がとれている」が14.1%、「どちらともいえない」が29.9%、「あまり対策はとれていない」が29.1%、「全く対策は取れていない」が23.4%であり、「十分な対策がとれている」は、わずか1.1%しかなかった。
重要性は認識しているものの、まだ十分な対策が取れていないというのが、メンタルヘルスケア対策に対する人事担当者の“実感”だといえる。
日本の企業におけるメンタルヘルス対策
こうした状況について、神田東クリニック院長の島悟氏は、「外部EAP などの専門家とうまく連携することで、メンタルヘルスの質を上げることができる」と述べる。島氏は日本の企業のメンタルヘルス対策は、業界や業種などによって進捗度が異なるという。たとえば製造業では、早くからこの問題に取り組んでいる企業が多い。
「日本の製造業は、歴史的に職場の安全衛生に対する関心が高い。職場単位の従業員教育や啓発活動も盛んです。そのため従業員のメンタルヘルスについても、安全衛生の一部として、早くから導入されてきました」(※以下、コメント部分は島氏談)
また、概して外資系企業では、メンタルヘルスへの関心が高く、独自の仕組みを持っている企業が多い。