日本型EAPとメンタルヘルスの統合 個人へのサポート強化で社員個人の 自律と会社組織の活性化を促す
以前から日本にもEAPはあるが、企業の理解はメンタルヘルスに終始し、多くの企業では人材教育と無縁の世界であるとして、切り離して運営されているのが実情だと思う。また、外部EAP の事業者が多数参入しているが、会社内部の人間関係や仕事の特性をしっかり取り込んだサポートというよりも、一般的な意味でのメンタル対策に終始してしまっている。新しい提案や、サービスの改善につながらず、手詰まりの状況にあるのではないだろうか。
一方、従業員の心の問題に焦点を当て、いかに元気にしていくかという問題意識が急速に高まり、多くの企業でキャリアアドバイザーやキャリアカウンセラーを養成し、活動の場を与えている。手詰まり感のあったEAP 領域が、キャリアアドバイザーやキャリアカウンセラーを取り込むことで、日常のよろず相談をきっかけにして、「日本型EAP」ともいうべき独自の支援システムの構築が可能になってくると思う。先行企業の中でもとくに積極的に活動している日本電気(NEC)、キヤノンのキャリア支援の現場で行われている話を伺い、現状と今後の方向性に関して一緒に考えていきたいと思う(花田光世)。
NECは2002 年にアドバイザーを配置
堀内
NEC では、2002年の7月にキャリアアドバイザー制度を導入しました。IT業界は激変する事業環境とグローバル競争が激しい中にあって、構造改革を進め、競争力を強化していくことが求められています。いかに競争力を高めていくかという視点に立った場合、従業員1人ひとりが活き活きと自律的キャリアを構築し、自己啓発を継続して、個人として輝くことが大切です。その結果として、企業の活性化、競争力アップにつながっていきます。アメリカのIT 産業においては、40 代や50代になっても大学や大学院に戻って学ぶなど、つねに能力開発を考え、主体的にキャリアを形成している人が多く見受けられます。それが日本企業との競争力の差になっているのではないでしょうか。NECは、生涯にわたってキャリアを自律的に形成できるようにサポートしていくシステムを目指しています。
花田
キャリアアドバイザーは何人いらっしゃいますか。
堀内
2002年10月に活動をはじめた当初は10人でしたが、定年退職者もあり、いまは8人のうち1人が女性です。バックグラウンドは人事部門のほか、研究職、営業、ソフトウェア技術、ハード技術と多岐にわたります。部長職レベルのマネジメント経験を、任用の条件として求めています。
キャリア以外の相談や研修企画も
花田
相談に来る人は、最初にどういうことを頭に描きながら来るのでしょうか。
堀内
相談に来る人の7、8割は前向きに自分のキャリアをどう形成するかという視点から、第三者のアドバイスを求めて来ています。
花田
年齢階層ごとの傾向は?
堀内
20代・30代は意欲的な来談者が多く、仕事・キャリア開発に前向きに取り組んでいきたいとの相談。40代は少し後ろを振り返って、いままでのキャリアを整理し、今後の自分の役割やキャリアをしっかり考えていきたいという傾向が見られます。50代になると、セカンドライフの視点も入れて、キャリアを考え直してみたいという相談が多いですね。
花田
人事も管理者も、そういった相談を従来から受けておられると思いますが、なぜ、キャリアアドバイザーのところに相談に来るのでしょうか。
堀内
毎年、上司と部下がキャリアについて話し合う面談制度がありますが、そこで話し合われる内容は、いまの仕事だけにフォーカスしがちです。上下関係を超えて客観的、中立的な立場から専門的なアドバイスをほしいというときや、他の仕事に変わりたいといった上司に言いにくい相談事があるときに利用されるようです。
花田
キャリアアドバイザーは新しい存在で、まだ認知度が低いと思うのですが。相談室の中で待っているだけで、相談に来てくれるのでしょうか。
堀内
立ち上げに際しては、キャリア自律の重要性について、トップからの説明と外部専門家にご講演いただき、CD-ROMに収録して全管理職に配布しました。労働組合とも連携し、従業員へのPR に努めました。イントラネットやメルマガでもアピールし、各事業場や本社でキャリアに関する講演会を開催し、その中で制度を紹介する場も設けました。
キャリアアドバイザーは、個人カウンセリングのみならず、キャリア研修の企画やファシリテーションも行います。キャリア研修は、2年目の社員全員のほか、30 歳、40 歳、50歳の節目に行います。その際、「キャリアについて何か相談があれば、いつでも来てください」とPR に努めています。これまでに、6000人以上がキャリア研修を受けました。従業員が全体で3万人ですから、5分の1ぐらいがすでに受講しています。
人事と産業保健の中間のポジション
大野
キヤノンがキャリアカウンセリングを導入・強化したきっかけは、賃金制度の改革です。職務と職責によって処遇を決める役割給になり、従業員が自分の仕事と責任について、以前にも増して考えることを求められるようになったのです。働く環境が大きく変わる中で、個人へのサポートとして2004 年1月にヒューマン・リレーションズセンターの組織を立ち上げました。現在のメンバーは9人で、その半分が技術部門を中心に、管理職経験のある人が社内公募で選抜されました。あとの半分は、人事から異動してきた人です。
ミッションとしては、キャリアカウンセリングのみならず、個別の労務相談全般を受けます。会社における自分のキャリアをどう構築していくかということのほか、職場の人間関係の問題、転勤問題、たとえば単身赴任が長いので環境を変えたいといった問題や、ときにはセクハラの問題、健康問題も含めた話ですね。
職場の風土改革も、私たちのミッションです。個別相談を受ける中で、組織や会社の姿が見えてくる部分もあります。組織の健康度や課題について、上長にフィードバックして、組織の風土を変えるきっかけにしていただくというような役割を果たしています。
個別の相談とは別に、入社4、5年目の社員全員に対して、1対1で会います(キャリア相談)。それまでの仕事の振り返りや、これからどうやってステップアップしていくかについて話し合います。全員に会うので、年代層の組織ごとの風土が見えてきます。
キャリアというものは、入社、結婚、昇進といった人生の節目に考えるといわれますが、何かにつまずいたときや、悩み事を抱えたときも、キャリアを考えはじめるきっかけになります。
花田
そうすると、人事部門にも健康管理・保健の部門にも近いポジションで、両方の機能を一部、代替している面もありますね。