巻頭インタビュー 私の人材教育論 人は理屈ではなく 心で納得してこそ はじめて動く
人材育成を基軸においた構造改革と、「火の見櫓(やぐら)(問題点の早期発見・解決の全社体制)」などわかりやすい言葉を用いたリスク管理で、短期間に経営改善を実現。
2006年度「能力開発優秀企業賞」本賞を受賞したNTT ソフトウェアの鈴木社長に、受賞テーマでもある「自立と自律で自ら成長し続ける人材」の育成についてお伺いした。
社員のモラル低下で気づいた会社の危機的状況
── 鈴木社長は2002 年6月、NTT 本体の取締役第三部門長からNTT ソフトウェアの副社長に就任されたわけですが、当時、NTTソフトウェアは売上げが伸びているにも関わらず、純利益は3年連続赤字という厳しい経営状況だったとお伺いしています。どんな決意で副社長に就任されたのですか。
鈴木滋彦
(※以下、鈴木とする。敬称略)
じつは持株会社から見ると、そんな危機的状況だという印象はまったくなかったんです。2000 年頃から、売上げはどんどん伸びていました。利益率は多少下がっていましたが、順当に伸びているという情報ばかり聞いていたので、この会社に来てはじめて「これは大変な状態だ」と驚いたわけです。
── 「大変な状態」というのは、どの部分で感じられたのですか。
鈴木
業績以前に社員がバラバラで、モラルが落ちているところが1番気になりましたね。一言で言えば「いい加減」(笑)。まず、基本である挨拶さえできない。社員同士はもとより、上司にも挨拶しないし、その上司も部下に注意する様子がない。守衛さんも社員の出社時、社員証は確認するが、「おはようございます」の一言が出ない。まあ今から思えば、会社がダメになるっていうのはこういうことだという典型でしたね。
── 業務の問題ではなく、会社の雰囲気からあまりよくない状況だということを感じられたわけですね。
鈴木
そんな事例はいっぱいありましたよ。例えば社内のパーティに出席しても、私の周りに集まってくる社員の話題は仲間の悪口ばかりでね(笑)。開発部門は営業部門への、営業は開発への不平を言うわけです。やれ、いい仕事を受注してこないとか、受注してきても開発部門に人がいないとか、忙しいとか。そんな感じですから、社員のモチベーションが下がるのは当たり前です。
社内のそういう雰囲気は、6月の就任から3ヵ月もすればおのずとわかりました。そこで、会社を立て直すにはどうすればいいのか、ということを年末にかけて考えたわけです。
社員のマインドを変化させるさまざまな施策や仕組みを断行
── その結果、鈴木社長は、当時副社長として会社の構造改革に乗り出しました。改革の前提となる問題点をどう分析されたのですか?
鈴木
大まかに言えば2つ。売上構造の変化と顧客ニーズの変化、この両方に対応しきれていなかったことが最大の問題点です。
弊社は設立以来、おもにNTT グループからの大型プロジェクトを受注してきたのですが、1998 年からNTT グループ外の一般市場にも本格的にビジネス展開しはじめました。しかし、一般市場から受注できるのは、ほとんどが短期・小型プロジェクトです。それに対して、仕事のやり方は大型プロジェクトのままで、新たなプロジェクトリーダーも育成できていない。1人のリーダーが多くのプロジェクトを兼務する上、リスク管理もできていないので、当然トラブルが増える。多くのプロジェクトを動かして売上は伸びるが、利益はどんどん落ちていく、という構図なんです。
── 一方、顧客ニーズの変化という点については?
鈴木
従来の受託開発の発想では、お客様の要望を聞いて、その通りにシステムを組めばよかった。しかし、企業にITが導入された現在、経営課題はすでに分かっているがどう解決したらいいのか、どんなシステムが必要なのかが分からないというお客様が大部分です。それに対応するには、業務分析・コンサルティングから行わないといけないのですが、弊社では相変わらず従来の受託開発のマインドのまま。もちろん、コンサルまでできる能力の高いSEの育成も進んでいませんでした。