人材教育最前線 プロフェッショナル編 1 人ひとりが成長してこそ、 企業も成長できる
東京電力グループは「経営ビジョン2010」に基づき、体制の大きな変革を行った。変革の背景にあるのが電力の自由化だ。電力の独占供給を行ってきた電力会社に、新たに競争という要素が加わったのだ。「この競争を勝ち抜くためには、技術・技能の向上だけではなく、課題解決能力、対人間関係能力を高め、社員1人ひとりが成長していくことが重要だ」――こう考えて、山崎雅男氏はさまざまな研修制度やプログラムづくりの指揮に当たった。経営面から見た人材育成とは、人づくりとは。その思いと取り組みを伺った。
自由化へ対応するための“強い人材”育成
電力会社は長い間、地域独占体制が認められており、すべてのお客さまへ電気を供給する義務を負っていた。電気の供給力を確保して、必要な電気を届ける安定供給が、電力会社の価値であり事業基盤だった。
しかし、2000 年3 月から電力の自由化がスタート。電力会社にとって、これは非常に大きなインパクトとなった。経営上の最大のポイントは、企業内部で革新・改革を進めて、いかに限られた市場の獲得を巡る競争に勝つか、という自由化への対応だった。また、原子力の一部不適切な取り扱いにより、社会的な信頼が失われたことも要因の1つとなった。
これを受け、東京電力では「エネルギー・サービスのトップランナーを目指す」というビジョンを打ち出し、そのために「社会の信頼を得る、競争を勝ち抜く、人と技術を育てる」という3つのグループ経営指針を作った。
一番大切な基盤は社会の信頼を得ること。これに全社をあげて取り組まなくてはならない。
また、競争という点からみると、現在、東京電力以外から電気を買っているお客さまはすべて大企業で、その規模は250 万キロワット。原子力発電所1基の供給量が100 万キロワットというから、その2基半に相当する量がすでに他からの供給になった。家庭用電気は自由化対象外なので、圧倒的な数のお客さまは残っているものの、競争は一段と激化している。
社会の信頼を得る、競争を勝ち抜くという2つの経営方針を推し進めていくためには、企業の内的な基盤を、より強化する必要がある。これが人と技術を育てるという3つめの指針である。
「供給力を準備していけばいい時代から、販売をしていく時代になったのですから、販売に伴うサービスが重要になるし、相手よりも優れたものを作り出していかなくてはなりません。その基盤となるのが、電気を安定的に、安全に送って社会的な信頼を得ることですから、これができる人を育てることが第1に大切なのです。また、時代の環境変化に対応して、一般企業が適応していったように、電力会社ももっと環境変化に適応した改革をしていかなくてはならない。つまり、事業を変革できる人も必要になる。この両面について、今、人材を育成しなくてはなりません」(山崎雅男氏談※以下コメント部分はすべて同氏)
OJTとOff-JTの堅固な研修制度
東京電力の基本となる仕事は、火力、原子力、水力などで発電した電力を、送電線、変電所、配電線などの各種流通設備を通してお客さまのところに届けるまでの発電と流通である。これに全社員の7 割近くに当たる技術者が携わっている。
そのルーチンには千差があり、その人たちの技術技能を確実に育成することが求められる。