インストラクショナルデザイナーがゆく 第2回 エレガントに学ぶ“女王陛下のeラーニング”
英国のeラーニング専門家を訪ねて はるばるコベントリーへ
「eラーニングの本場といえば米国」という人が多いが、EU各国も負けてはいない。それぞれ個性に富んだeラーニングを展開していて面白い。たとえば英国には、e ラーニング専門家の認定資格CeLP(The Certified e-Learning Professional)があり、その資格取得のための教育機関である“トレーニング・ファンデーション”が有名だ。というわけで、ロンドンでの仕事のついでに足を延ばし、尊敬するe ラーニングの専門家、クライヴ・シェファードが開発したCeLP 研修プログラムについて、現地のインストラクショナルデザイナーや担当者たちと情報交換することに。学会などのフォーマルな情報ではないけれど、実務者たちとの気のおけない会話から、思いがけないアイデアをもらうことも多く、こんなインフォーマルな情報交換も貴重な仕事の糧なのだ。
「イースター前のロンドンはまだ寒い」と言われ、右手に傘、左手にトレンチコート、背中にPC、といういでたちで降りたったヒースロー空港。ところがどっこい、シックなホームズ・スタイルが単なるホームレス・スタイルに見えてしまう猛暑である。ハイドパークなんぞは、T シャツ&ホットパンツが一番似つかわしく、野鳥と一緒に水浴びしたいような初夏の風情。ふぅっ。
汗をふきふき仕事を終え、ロンドンから北へ。陽光あふれる牧草地を眺めながら、列車で1 時間ちょっとの大学の町コベントリーに向かう。こじんまりとしたコベントリー駅から、タクシーで約10 分のところにあるのが、校内に巡回バスが走るほど広大な敷地を持つ、ワーウィック(Warwick)大学である。
――ワーウィック大学は、IT 化で世界トップ20に入る最先端の研究施設。大学の一角を占めるサイエンスパークには、“トレーニング・ファンデーション”をはじめ、さまざまな研究組織や先端企業が点在している――
と聞いてあたりを眺めるが、なんか違う。どう見ても19世紀末の「不思議の国のアリス」のようなメルヘンな世界。深い木立の間にたたずむ「先端研究施設」は、赤レンガ造りの可愛い2階建てだし、時折その前を野鳥やウサギが横切る、まことにのどかな風景なのである。
出迎えてくれたトレーニング・ファンデーションのディレクターは、これまた絵に描いたような伝統的英国紳士。握手の柔らかさ、クイーンズ・イングリッシュの優雅さ、しゃべるたびに口角を「キュッ」とあげる上品な微笑。どれをとっても完璧である。見とれていた私は、「とりあえずお茶でもいかがでしょう?」と言われるまで、握手したままボーッと突っ立っていたのである。