インタビュー プライドがあるから 誰もがプロフェッショナルになる
故・黒澤明監督の助監督を長年務め、『阿弥陀堂だより』『博士の愛した数式』など、話題の作品を撮り続けている小泉堯史監督。映画製作の現場に身を置いている監督に、映画の現場におけるプロフェッショナル、そしてチームワークの大切さを語ってもらった。
仕事をきちんとやるのはプロであれば、当たり前
映画というのは、現場でなくては覚えられない仕事です。“走って体で覚える”とよく言いますが、1つひとつの仕事を自分で経験して覚えていくほかないんです。
だから、自分の中には、“育てる”“育つ”という意識はないんですよね。与えられた仕事を一生懸命やろうと思っているだけです。
そして、プロであれば、仕事をキチンとやるのは当たり前です。黒澤さんは完璧主義者だとよく言われますが、そもそも、完全を求めない仕事なんてないと思います。
自動車を作るにしても、誰でも完全なものを求めるものです。そうでないと、安心して乗ることができないからです。そのために、1つひとつの仕事を丁寧に、きちんとやっていくことは、当たり前のことだと思います。
黒澤さんは「監督という仕事は、最前線の指揮官や、オーケストラのコンダクターである」と言っていました。黒澤さんの振るタクトの方向を見て、みんな一点に集中する。そういう現場は非常にいい。
しかし、僕はまだ、タクトは振るというよりも、一緒に仕事をしてきて、黒澤さんが残してくれたスタッフの人たちと、一緒に仕事をする楽しさの方が大きいですね。僕はどちらかというと、現場の人たちが存分に腕を振るえる環境を作ることを大事にしています。
その環境があれば、新人も昔からやってきたスタッフの中で、自然に仕事を覚えていくものです。黒澤さんの教えてくれたものを、自然に現場の中で継承していく。そういう現場になればいいなと思っています。
映画の現場は生き物みたいなもの
映画の現場では、会議室でミーティングをするということはありません。“現場ではじまり、現場で終わる”という感じです。前日にリハーサルをして、大体内容を固めて、次の日に本番。
本番がいけるかどうかは、監督が判断します。もう少しリハーサルを重ねた方がいいのか、リハーサルをしないで撮影した方がいいのか、雰囲気を見て判断します。そういう点では、現場は本当に生き物みたいなものですね。