企業事例 博報堂 全員がクリエイティブ・エンジンであれ 管理職のあり方を見直し クリエイティビティの質の高さで評価を行う
クライアント、メディア、生活者といった広告業界を取り巻く環境が大きく変化する中で、博報堂は「安定的な顧客リレーション」「中長期スパンで顧客から必要とされる能力」の必要性を見出した。
その結果、教育機関として企業内に社長直轄組織の教育機関「博報堂大学」を創設し、クリエイティビティを培う土壌を作った。その過程と仕組みを取材した。
社員全員をクリエイティブ・エンジンに
一定水準のプロフェッショナルと、さらに高度なプロフェッショナルを育てる――博報堂が行う「2 段階」の育成システムには、「全員がクリエイティブ・エンジンであれ」という、社員への明確なメッセージが込められている。
「クリエイティブな博報堂」というポジションを確固たるものにするためには、全社員が既成概念にとらわれないクリエイティビティを持ち、創造力溢れる提案を行わねばならない。こうした人材こそが、顧客のために高い価値を生み出し、卓越した満足を創造するのである。
同社の人材マネジメントは、クリエイティビティを発揮する「優れたプロフェッショナル」を輩出するためのシステムとして設計されている。その仕組みと狙いを紹介する前に、博報堂の重視する「クリエイティビティ」とは何かを明らかにしておこう。
人事局人事部マネジメントプラニングディレクター上原直人氏は次のように語る。
「クリエイティビティを、私たちは『構想力』と定義しています。企みと仮説を描いて世の中に仕掛けを作り、効果を約束する力、と言えばよいでしょうか。この力は、大きく分けて3 つの要素によって成り立つと考えています(図表1)。
第1に「発見力」。既成概念にとらわれず、自由な視点から、広く課題を見つめる能力です。第2に「共創力」。1人ひとりの専門性、個性を尊重し、チームでアイデアをぶつけあい、競い合わせ、高めていく力です。そして第3に「設計力」です。クライアントの課題解決のため、新しい価値を社会や生活者に提示、実現していく力を指します」
粒違いのプロから生まれる桁違いのプロたち
3 つの力を培うため、人材育成システムに、「教育と経験」「挑戦機会の付与」という2 つの基本フレームを設けた(図表2)。
まず、全員を一定水準のプロに育てるには、いくつかの職場で多様な経験をさせる。具体的には3年をめどに、2回の異動を行う「多段階キャリア選択制度」を導入。配置先については、本人の意向も勘案して、個々人の育ちと経験領域を1人ひとり丁寧にマッチングする。土台の広いプロフェッショナルの礎を築くことをねらっている。
それにより、それぞれ複数領域の専門性を併せ持った「粒違いのプロフェッショナル」とも言うべき、多様な力を持つ者たちが生まれる。同時に、全社員が共有すべき価値観や知識、スキルも体得させる。
社員のレベルが一定水準に達したら、今度はやる気のある者をさらに高度なプロフェッショナルへ育つよう動機づける。それぞれの専門性を深めさせ、さらなる能力発揮を促す機会を与えるのだ。
これらの基本フレームは、「アソシエイトロール」「プロフェッショナルロール」「高度プロフェッショナルロール」という3つの「ロール」を設定することにより活用している(図表3)。「アソシエイトロール」は、おもに若年層を対象に設定したロール。一定水準のプロに育てる人材マネジメントがここで行われる。この期間には成果よりもまず、能力の伸長を第一に期待するという。
さらに高度なプロフェッショナルの育成は、実務遂行の責任者としてチームを率いる「プロフェッショナルロール」、全社あるいは部門グループの業績に大きな影響を与える職務を遂行する「高度プロフェッショナルロール」に対して実施する。これらの段階では、当然ながら高い成果の発揮が期待される。
彼らは、複数の専門領域において突出した能力を持ち、それと同時にチームを統括して成果を出すリーダーシップを兼ね備えていなければならない。「アソシエイトロール」から、これらの段階にキャリアアップするには、かなり高いハードルを飛び越えることになる。
とくに「高度プロフェッショナルロール」は、会社や部門に大きな影響を与える立場だ。その評価は「職務」の大きさだけではなく、「期待役割」の大きさによって決定される。「いわゆる職種としての管理職は、今では存在しません。かつては、管理職の評価は統括する組織の大きさなどで測られていました。
しかし、マネジメントだけがリーダーたちの仕事ではない。チームを率いていかに付加価値を生み出すかが重要です。そこで、従来の管理職のあり方を見直し、クリエイティビティの質の高さによって、評価を行うことを目指しました」(上原氏)。
付け加えると、同社でPDM サイクルと呼んでいる目標管理の評価方法は、次の通りとなっている。
まず、「アソシエイトロール」は、成果創出が50 %、能力発揮が50 %の割合で評価される。これに対し、「プロフェッショナルロール」「高度プロフェッショナルロール」では、成果創出が70%、人材育成が30%だ。