企業事例 日本IBM ソリューション・サービス・ビジネスへの転換が生んだ 明確な認定、処遇、支援を整備したプロフェッショナル人材育成
多くの企業で課題となっている自律的な成果を生み出すプロフェッショナルの人材育成とその活用。
こうした取り組みを先駆的に開始した企業の1つが日本アイ・ビー・エムだ。
同社のプロフェッショナルの人材育成と活用が始まったのは1990年代初め。
その後今日までバージョンアップを繰り返し、その最先端に位置している。
同社のプロフェッショナルの人材育成やキャリア開発における位置づけについてレポートする。
IBMのプロフェッショナル人材育成
日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)が営業および技術系社員を対象としてプロフェッショナル人材の育成に本格的に取り組み始めたのは1993年。アメリカのIBMコーポレーションは、これに先だって1991年に導入している。
この時、同社ではプロフェッショナル人材認定を制度化し、後に述べる通り、職制の中に組み込んでいる。同社の認定プロフェッショナルは、ICP(IBM Certified Professional)と呼ばれている。
「これ以前の日本IBMの営業・技術系社員の職制は、日本の他の多くの企業同様、一元的なキャリアパスに基づいたものだった。つまり、主任-課長-部長-事業部長というようにライン専門職(ラインの管理職)になることが、唯一のキャリアパスでした」
このように語るのは、人事(ラーニング&ディベロップメント)のマネジャーとして同社のキャリア開発を担当する嶺村富士雄氏だ。
このICP導入を機に、日本IBMでは、営業・技術系社員の単線型の人事体系をライン専門職とプロフェッショナル専門職の複線型に変え、図表1のように職制の中に組み込んだ。
同社の複線型人事の第1のポイントは、ライン専門職(現場の管理職)とプロフェッショナル専門職を待遇面で同格としたことである。同図の通り、同社の給与等の待遇はバンド(等級)で決められるため、プロフェッショナル専門職は給与等の待遇面では、ライン専門職と同等の位置にある。
そして、2つめのポイントは、プロフェッショナルの昇進・昇格に独自の認定制度を導入したというものだ。認定を受けたプロフェッショナル専門職がICPである。
マネジメントと専門職(プロフェッショナル)の複線型のキャリアパスは日本IBMにかぎらず多くの企業が導入しているが、日本IBMの場合、認定の基準を明らかにすることで、社員個々がキャリア開発を取り組みやすくしたこと、待遇とこうした専門職の職制(職階)をカップリングしたことが特徴になっている。プロフェッショナルとしての認定を受けることで、等級と年収がアップし、社内外の評価を受けることになる。嶺村氏によると、こうしたことが、社員のモチベーションを高め、実効ある仕組みとして機能した大きな要因になったという。
1993年には、ICP登用の間口を広げるため、同図の通り、ICPの候補生とも言えるスペシャリストという職位を設けた。これにより、ICP候補者は営業・技術系社員全体の7割程度に広がったという。
スペシャリスト、ICPという職位について、それぞれ認定の仕組みを設けることで人材の質を確保するとともに、その育成に向けた、さまざまな教育制度を充実させてきているというのが日本IBMの現状である。また、ライン管理職の他にプロフェッショナルへのキャリアパスを設けたことは、自律的なキャリア開発を促すという狙いも含まれているという。