連載 サービス品質・業務品質向上のための教育② クレーム対応の人材に求められるスキル
「我が社は資金不足では傾かない。しかし品質不良とそれに起因するクレームへの対応を誤れば、一瞬にして存続は危うい」
これはある欧州ブランドの社長の言葉である。4回連載の第2回では、一歩間違えれば極めて重大なダメージを経営に与えかねないクレームの対応について、的確に対処できる人材育成の必要性と、その方法を提案する。
1. クレームへの的確な対応ができるか
お客様 (険しい表情で怒りながら)3カ月前にここで買った10万円もするバッグだが、皮革の処理が悪いのか糸のようなものが出てきているんだ。まだ2~3回しか使っていないのにひどいものだ。10万円も出したバッグがこれでは納得できない。いったい、この百貨店ではいい加減な商品を売っているのか? さて、どうしてくれるんだ?
売場担当者 なるほど……。確かに糸のようなものがはみ出してきていますね。しかしお客様、3カ月前にご購入いただいているとのことですので、少々お時間が経っております。また、この革は使用するにつれて良い風合いが出てくるのも持ち味でございますし……。
お客様 何をくどくど言い訳しているんだ! どうするのかと聞いているんだ。このままでは納得できないぞ! このままにするつもりではないだろうな。どうしてくれるんだ!
売場担当者 (やや狼狽して)いえ、このままというわけでは決して……。あの、こちらで少々お待ち下さい。すぐにお調べいたしますから。
(売場奥にバッグを持って行き、しばらくして担当者がにこやかな表情で戻ってきた)
売場担当者 お客様、私どもでお調べしました。やはり少し糸がはみ出しておりましたが、この商品は天然の素材と手作業での縫製をしておりますので、多少のほつれは出てまいります。ですが、すぐに処置をすれば再発はしにくいようですので、ご覧のように糸を見えない位置でカットして参りました。これでいかがでしょうか。
お客様 (穏やかに)ほう。では聞くが、私のバッグは不良品だったのかね?
売場担当者 (不良品と認めるわけにもいかず)いえ、不良品ではございません。
お客様 (穏やかに)そうか。では私は修理依頼をしたかね?
売場担当者 い、いえ。しかし、お客様が糸を気にしておられましたので、あくまでもお客様のためにと思いまして処置をいたしましたが……。
お客様 (激怒して)お客様のためだと! 何を勝手なこと言っているのだ。君は私のバッグは不良品ではないと言った。しかもちょっと前には「風合いが出てくる」とも言った。君がやったことは、私の不良品ではない真っ当なバッグを、かつ、これから風合いが出てくるかもしれないバッグを勝手に傷つけたということだぞ!
売場担当者 (やや憤慨して)お客様、あくまでもお客様のための処置でございますし、お客様も暗に修理を期待しておられたのではないかと……。ですので、そのように一方的におっしゃられましても……。
お客様 私はあくまでも「どうしてくれるんだ?」と質問したんだ。修理を期待しているかどうか君に判断できないよ。それに、私はこの百貨店は信用できないと思って、実ははじめから録音もしていたんだよ。この場で聞き直そうか? それで私が修理を依頼していないことを証明してさしあげようか?