企業事例 イオン 通信教育と集合教育それぞれの効果を明確にして 研修効果を最大化する
30代の初級管理者であっても、マネジメントすべき部下が80名いることもあるイオンでは初級管理者といえども、店舗の売上に大きな影響を与える。
集合研修でとことん議論・研究するための事前学習として通勤時や休み時間を最大限に利用できる通信教育を利用したブレンディングを初級管理者研修に導入した背景と経緯を取材した。
真剣に聞き入る受講者 そして個人研究開始
「マネジメントの成果は、現場第一線の人たちが何を考え、何を語り合い、どう行動したかですべてが決まります」と十数名の受講者に語りかける講師。その言葉に聞き入る受講者は、誰もが真剣そのもの。「なるほど」とうなずいている受講者も少なくない。
スライドとテキストを使っての解説を終えたところで、講師が全員に声をかける。「それでは個人研究に入ってください」。受講者はおのおの、たった今説明されたばかりの課題に取りかかる。研修の場での個人研究。制限時間は2時間。その後には、「グループ研究」での1時間以上にわたるディスカッションが用意されている。
講師は、メモや図を書きながら考える受講者の間を回って、その手元をのぞいてはアドバイスを与える。挙手して講師を呼ぶ者もいる。講師と受講者のやり取りは、時にコーチングのようであり、カウンセリングのようであり、「人生相談」の様相を帯びることも珍しくない……。
イオンの初級管理者向けマネジメント研修
前述の光景は、イオンで行われている初級管理者対象の「マネジメント研修」での典型的な1コマである。
イオンの従業員の資格は、J職、M職、S職に分かれている。J職は実務を担当する売り場のスタッフ。売場マネージャー、売場長、スタッフ、ショップマスターなどが該当する。M職は管理職層。店長、副店長、統括マネージャー、売場マネージャー、商品部員、エリアマネージャーなどだ。S職は経営幹部層。経営層、事業部長、商品部長、大型店店長などである。
J職とM職は、それぞれ3段階に分かれている。新卒者(大卒)は全員J1からスタート。ステップアップし、M職最初の資格に昇格すると、マネジメント層の仲間入りとなる。
そしてマネジメント職に昇格する時に、冒頭で紹介した初級管理者向けマネジメント研修を受ける。研修の種類はいくつかあるが、ここでは主に2泊3日の集合研修について触れてみたい。
実際に適用するための考え方とスキルを身につける
この研修の目的について人材開発部の天野愛子氏は次のように語る。
「日々の仕事で実際に活用し、きちんと部下をリードできるようになること。そのために、マネジメント手法の適用方法と考え方を身につけることが、最大の目的です」
この研修はマネジメントの基礎を身につける初級管理者研修であるが、「知識」だけを身につけようというものではない。研修が終わった後、職場に戻って取る行動が実際に変わる、そういった研修を目指している。
同社のような小売業の場合、初級管理者といえどもアルバイトやパートなど、多数の部下を率いて店舗を動かしていかなければならない。この研修参加者の中には、マネジメントすべき部下の数が80人と答えた30代の女性もいる。つまりイオンでは、初級管理者といえども、そのマネジメントの良し悪しが、店舗の売上に大きな影響を与え得るのである。管理者が現場従業員のやる気を引き出せなければ、顧客は敏感に反応し、店から離れていかないとも限らないのだ。
事前事後の通信教育と集合研修で最大限の効果を
これまで述べてきた通り、この研修はある種切迫したニーズを持っている。したがって研修を設計するにあたって天野氏は「研修の効果を最大化したい」と考えたという。一体どうすればいいのか?……、人材開発部メンバーが議論の末たどり着いたのが、通信教育と集合研修を組み合わせるブレンディングであった。
まず集合研修の前に2つの課題が出る。1つは、事前に集合研修で使用するテキスト(通信教育の教材)を配布し、受講者に読み込んでもらう。この時は読むだけ。2つめの課題は「マネージャーとして、自分の職場の課題をピックアップする」というもの。2つの課題に取り組んだ上で1カ所に集まり、2泊3日の集合研修を行う。研修修了後には、事後の振り返り学習として通信教育のレポートを提出する。そして、上司、人材開発部への報告も行う。
天野氏らがeラーニングではなく、あえて通信教育を選んだのには理由がある。同社の従業員の多くは店舗に勤務しており、お客様に合わせて業務を遂行するため、長時間パソコンの前で学習することは難しい。そのため、eラーニングだと自宅でパソコンに向かうしかなくなってしまう。それならば、空き時間や通勤時間にも活用しやすい、通信教材のほうが使いやすいのではないか。それが天野氏らの結論だった。