企業事例 NTTコミュニケーションズ eラーニングと集合研修で事業ビジョンに則した プロフェッショナル人材に
専門的知識やスキルを身につけ、個人としてバリューの高い人材を目指すことを奨励した人材戦略を見直し、「専門性と人間力・現場力」を兼ね備えたプロフェッショナル人材育成にシフトしたNTTコミュニケーションズ。
理解度を深めるためのeラーニングと、互いに思いをぶつけ合う集合研修を組み合わせた意義と有効性を語っていただいた。
人材は実践を通じて成長する
研修は現場での実践を支える支援環境
2005年11月、NTTコミュニケーションズは、「強い個人の集合が強い組織をつくる」という考え方に基づいて実施していたそれまでの人材戦略を見直した。
それまでの人材戦略では、いい意味で出る杭を伸ばすために、専門的知識やスキルを身につけ、個人としてバリューの高い人材、「個人プレーヤー」を目指すことを奨励していた。スキル認定を昇格条件にしたこともあり、確かに社員のスキルレベルは向上した。また、社外資格の所有数も急激に増加した。
「しかし、個人の専門性を重視するあまり、同じ人間関係の中で同じ業務に従事する傾向が強まり、社員の仕事での経験の幅が狭くなってしまいました。その結果、全体のプロセスを考慮して仕事を進める力や課題を解決する力といった、社員の現場力が弱くなってしまったのです」と、ヒューマンリソース部人事・人材開発部門担当部長の大坪眞子氏は説明する。SEがシステム設計をする際など、本来なら保守などの後工程までを考えて設計すべき。ところが、いわゆる組織のタコ壺化が目立つようになってしまい、社員が全体最適から発想できないという弊害が目立つようになってしまったのだ。
この反省から新しい人材戦略では、「人材は実践を通じて成長する」ことを前提に、昇格・任用と異動をセットにした人事異動ルールを導入するなど、社員に成長の機会を与えるために人事異動を活性化することとなった。お客様へつながる一連の業務プロセス上のさまざまな部門で仕事の経験を積むことでタコ壺化から脱却し、現場力のある社員を育成するためである。そして、「研修が人を育てるのではなく、仕事が人を育てる」という認識から、研修を「現場での実践」を支える支援環境と位置づけた。
これを踏まえた上で、2006年11月に発表された「NTTコミュニケーションズグループ事業ビジョン2010」の実現に不可欠な人材像が示された。
それは、“事業ビジョン・行動指針を共有し、現場力・人間力、そして経験に裏打ちされた実践型の知識とスキルを備えたおのおのの現場のプロ(その道のプロ)として主体的に判断・行動し、チームプレーで付加価値を最大化できる人材”、いわば「専門性と人間力・現場力」を兼ね備えたプロフェッショナル人材(T型人材)である。
主体的なキャリア開発
現場力を醸成するためのキャリア支援プログラム
プロフェッショナル人材を育成するために、人材育成スキームの見直しも行われた。注力したのは、プロフェッショナル人材に向けて社員が自律的・主体的にキャリアマネジメント(またはキャリア開発)に取り組み、上長が効果的にそのサポートをするための支援環境を提供する点である。そのための支援施策として、NTT コミュニケーションズはキャリアマネジメント支援プログラムを導入した。
キャリアマネジメント支援プログラムは、社員(部下)が自分の志向や価値観を理解した上で主体的にキャリア開発をすることと、また上長がそのための支援を効果的にできることをサポートするためのプログラム。ここでいうキャリアとは、「一生を通じて取り組むさまざまな仕事(役割)と、それから得られる成長」のことを指す。「1998年から6年間、私はNTTアメリカに出向していたのですが、その時、現地社員が自分のキャリアに対して貪欲であることに非常に驚きました。自己責任を貫くという意味ではわがままとも見える言動に振り回されもしましたが、主体的に仕事に取り組む姿勢は素晴らしいと感心もしました。
彼らが主体的、つまり自分の意思や判断によって行動するのは、子供の頃からそう教育されているからだと思います。一方、私たち日本人は、自分の発言に自分が責任を持つというような経験を、大人になるまでの間にしていない。ですから、私たちは主体的にキャリア開発に取り組むという概念を、本当には理解できていないと思うのです」
と指摘する大坪氏は、さらに
「10年、20年といった長期ビジョンを社員に提供できた公社時代であれば、キャリアに対して社員は受動的であってもよかったのかもしれません。しかし、変化のスピードは加速するばかり。弊社も押し寄せる波に立ち向かうため、絶え間ない自己革新を実践しなければなりません。社員である私たちは、サーフボードでその波に乗るのか、ヨットで波を切るのか、泳いで波を渡るのかを選ぶ必要があります。社会や会社がどう動くのか、その波にただ流されるのではなく、自分の意思で立ち向かうと認識することが、働きがいにつながるからです。そのためにも、その波にどう立ち向かうか自己責任で選択しなければならない。その結果、会社の枠から飛び出てしまうという可能性もありますが、要は、そのくらいの覚悟をもってやっていくということなのです」