企業事例 竹中工務店 アセスメントとeラーニングによるフィードバック
2006 年に始まった昇格試験とe ラーニングのブレンディングは、昇格試験におけるアセスメントに対して、e ラーニング・コンテンツによるフィードバックを行うという画期的な取り組みだ。
昇格選考に加えて、マネジメント層への集合研修を補完する役割も果たしているこの取り組みについてお聞きした。
良い仕事と良い人材の好循環
竹中工務店といえば東京タワー、東京ドーム、ナゴヤドーム、汐留シティセンター、東京ミッドタウン、奈良朱雀門の復元工事など、各地を代表するランドマーク建設や都市開発にかかわる、日本を代表するスーパーゼネコンである。江戸初期(1610 年)の創業以来およそ400 年の歴史を持つ同社は、日本をはじめワールドワイドに活躍している。
文字通り“技術の企業”である竹中工務店は、その技術を支える従業員に対する教育に並々ならぬ力を注いできた。新入社員が1 年間の寮生活を送る新入社員教育、階層別教育、職能別教育、ジョブ・ローテーション制度など、「良い仕事が良い人を育て、良い人が良い仕事を生む」という人材開発理念のもと、教育制度を充実させ、体系的な人材開発を展開している。
根幹はOJT にあり
同業他社はすでに着手している状況の中、竹中工務店がe ラーニング「竹中e キャンパス」を開講したのは昨年7 月。自席で受講可能なe ラーニングで、多忙な中で移動する時間などを減らし、より効果的に、学習効果を高めようというもの。同キャンパス開講の背景には、「かつてのような人的、時間的パワーをかけるOJT ・Off-JT を、行うことが難しくなってきた」という事情があると人事室の竹内氏は語る。
「当社は長年、人材開発の根幹にOJTを据え、補完する形で集合教育(Off-JT)体系を構築してきました。その方針は現在も変わりませんが、現実として教育に割く時間的・人的ゆとりが少なくなってきています」
バブル崩壊後の1990年代、多くの企業がそうであったように、竹中工務店でも組織のスリム化が進んだ。同社の場合自然減であったが、この期間を経て社員数はピーク時の約1万1000 人から約8000 人にまで減っている。「ここ数年の都市再開発、民間設備投資の増加傾向などを受け、当社も受注量が増えてきました」。その結果、少ない人数で多くの仕事をこなす、近年の各企業で見られる構図が同社でも生じているのだ。
もう1つの事情は、いわゆる「2007年問題」である。
「ご多分に漏れず、当社でもベテラン社員の定年による大量退職が問題になっています。その危機感は全社的に強く、既に数年前から各部門が独自に後継層育成を進めてきました。建築技術部門、設計部門、設備部門、営業部門でも行っています。技術の継承と後継層の育成、将来の基幹社員層に対するマネジメント教育は、現在の人事上の最も大きな課題の1つです」
竹中e キャンパス開講
したがって竹中e キャンパスは、第1に教育ニーズに対する受講者、指導側双方の、人的・時間的不足を補完する役割を担って開講したといえる。昨年7 月、第1弾講座としてスタートしたのは、「企業倫理コンプライアンス」講座である。所要時間は50分程度(標準)。途中でセーブすることもでき、空き時間を利用して少しずつ進めることが可能。また講座終了時には確認テストがあり、それに合格しなければ「受講修了」とならない。不合格の場合は解説を読んで学び直し、再度試験を受けることになる。
開始にあたって人事室からは、e キャンパスおよびコンテンツの趣旨を各部門にインフォメーションし、「なぜ、この講座を全従業員が学ばなければならないのかの、目的の周知に努めました」と串崎氏は語る。展開状況を振り返り、e ラーニングの利点を次のように述べる。
「短い期間に大量の方々に均質な教育を提供するツールとして、e ラーニングは非常に優れています。履歴が残るため、誰が受講したのか把握も可能。合格ラインを25問中23問としたので、修了者の理解度もそれなりにあると考えています」
企業倫理コンプライアンス講座は、3 カ月間で99.7 %の従業員が受講修了した。「さまざまな職能の従業員に対しての一律の研修であるため、内容としてはミニマムラインですが、その周知はできたのではないかと考えています」。督促ももちろん行ったが、最初にトップ層からのメッセージがあるなど、インパクトがある教材であった。「現在、e キャンパスを踏まえ、各職能で専門的な視点で企業倫理・コンプライアンス教育を、Off-JT として展開中です」