巻頭インタビュー 私の人材教育論 人間力を育むことが組織力を高める
「丸の内再構築」を始めとしたビル事業を中核に、都市開発、住宅開発を着実に推し進め、2006 年度に最高収益を上げた三菱地所。以降も数々の巨大プロジェクトを立ち上げ、新しい価値を持つ都市創造を目指していく。
その事業を支える人材は、どのように育成されるのか。
2005 年から三菱地所を率いてきた木村惠司社長にお話を伺った。
ディベロッパーから街づくりのプロデューサーヘ
── 三菱地所は、1998 年に「丸の内再構築」に着手され、2002年オープンの丸ビルを皮切りに次々と新しいビルを竣工されてきました。
今年は新丸ビルが完成し、4 月27 日のオープン初日には13万人もの来場者が訪れ、ゴールデンウイーク期間中の来場者数は122 万人に上ったと伺っています。実際、丸の内の変貌は目を見張るものがありますね。
木村惠司
(※以下、木村とする。敬称略)
1995年の阪神・淡路大震災によって建物の耐震性が問題となり、丸ビル建て替えを機に、三菱地所は単なるディベロッパーとしてではなく、プロデューサーとして丸の内の資産を活かしながら時代に望まれる新しい街づくりに取り組んできました。
丸の内をビジネスの場としてだけでなく、多様な交流の場にしたいと考えたのです。
── 演劇・アートのイベントや、2005年から毎年、東京国際フォーラムを中心に丸の内エリアで開催されているクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」など、今や丸の内は、文化の発信地です。ファッションや食事も楽しめる大人の街、丸の内は大きな反響を呼んでいます。丸の内エリアの街づくりは大成功だと言えますね。
木村
街づくりには終わりがありません。ビルや地域が人々に愛され、支持を得続けるためには、オフィスの拡張や設備の改善といった機能更新はもちろん、活性化に向けてのサービスも進化し続けなければなりません。
丸の内にしても、「ザ・ペニンシュラ東京」の竣工で「丸の内再構築第1 ステージ」が完了し、来年からの10年はこれまで取り組んできた「丸の内再構築」のさらなる拡がりと深まりを目指した、「第2ステージ」が始動します。
絶対的な価値がある商品やサービスなど、世の中には存在しません。商品やサービスが選ばれるのは、他よりほんの少し優れた何かがあるという理由からです。他とのちょっとした違いは、その商品やサービスを提供する側の人たちの、進化し続けようというこだわりによって生まれます。こだわりは、人間力という言葉に置き換えることができます。
ですから当社がより良い街づくりを実現するためには、人間力を持つ人材の数を社内にいかに増やしていくかが問われることになります。これもまた、終わりのない挑戦です。
人間力を育む5つの要素
── 優れた人間力とはどういったものでしょうか?
木村
「頭」と「腹」と「足」、そして「心」と「情熱」の5つの要素があると考えます。
「頭」とは、知恵です。スキルが高くノウハウを持っていても、問題解決ができなければ意味がありません。学ぶ上で大切なことは、なぜこうなるのだろうと、常に自分に問いかけることです。その理由が納得できなければ、その知識は問題解決の際の知恵に結びつかないのです。知恵を重ねる前提として、考えて、考え抜いてほしい。そうする中でしか、人は自律して解決策を見出すことはできません。
「腹」とは、胆という言葉に置き換えることができます。つまり、度胸。「胆が据わる」という言葉がありますが、物事に恐れず立ち向かう気力を備えているということです。
「足」とは、実行力のこと。日本能率協会マネジメントセンターの野口晴巳社長に伺った「学思行相須ツ(がくしこうあいまつ)」という言葉に私は感銘を受けましてね。これは、江戸時代の儒学者、細井平洲(へいしゅう)の言葉で、意味は「学び、考え、実行することの3つがそろって、初めて学んだことになる」という言葉だそうです。実行が伴わなければ、学んだことにならない。ですから、実行力がなければ、知恵も度胸も意味がないということになります。
さらに「実行」するものには、健康であるということも含まれます。健康でなければ、率先垂範する行動力は発揮できません。
「心」とは、他人の立場で考えることができる思いやりでしょうか。ビジネスが人間の営みである以上、誠実さや謙虚さ、優しさといった豊かな人間性を備えていなければ、いい商品も、いいサービスも提供できるはずがありません。
「情熱」は、チャレンジ精神と言い換えることができます。さらにあきらめない我慢強さや忍耐力も情熱に含まれるでしょう。
もちろん、これら5つの要素をすべて備えた人物など、なかなかいません。私自身もそうなりたいと願ってはいますが、道半ばです。
しかし、これに近い人を1人でも多く育てることが、組織力を高めることになると信じています。