講演録 “場”が生み出す持続的なイノベーション
日本能率協会コンサルティング(JMAC)が主催するトップマネジメントフォーラム「人・組織のエンパワーメントによる成長・発展」が開催された。JMACが先ごろスタートさせた研究プロジェクト「将来に向けた企業経営のあり方」の一環で、約230名が参加した。フォーラムとしては第1回めの開催となった今回は、3M・住友スリーエム代表取締役社長ポール・D・ロッソ氏、大久保孝俊執行役員から「3M、その成長戦略とクリエイティブ・マジック」、また、これからの企業経営に必要な手法として「場のマネジメント理論」を提唱する一橋大学の伊丹敬之教授が「イノベーションと場のマネジメント」と題して講演。参加者は熱心に耳を傾けた。
“場”とは、カネ、情報、感情の流れ
「すべての仕事の現場には、カネ、情報、感情が流れている。この3つの流れをうまく起こすことが、マネジメントの本質です」と伊丹教授は言う。これら3つの要素が1つ抜けても、場はうまく流れない。うまく流すための場をつくり出すことが、伊丹教授の言う「場のマネジメント」だ。
場のマネジメントからイノベーションを考えてみると、知識を生み出すためには研究開発者の中での情報や感情の流れが必要であり、製品として社会に供給するためには市場との情報の流れも必要になる。その中でも「ひょっとすると感情の流れのほうが大切かもしれない」と伊丹教授は言う。
新たな製品を生み出すには、非常に長い期間が必要だ。当然ながら、かなりの心理的エネルギーが求められる。この心理的エネルギーが尽きてしまえば、明日すぐに利益を生みそうな商品、上司に言われた通りの開発しかできなくなってしまうだろう。意志の強弱は人それぞれ。「弱いエゴの人間が、仲間のサポートでプラスに働かないとイノベーションは起こりにくい。だから和が必要なのです」(伊丹教授、以下同)。この和を生み出すものこそ、まさに“場”と言える。
では、場とは何なのか。伊丹教授は「人々がそこに参加し、意識的にも無意識的にも相互に観察し、コミュニケーションを行い、相互に理解し、相互に働き掛け合い、相互に心理的刺激をする、その状況の枠組みのこと。つまり、濃密な情報的相互作用と心理的相互作用が起きる“容れもの”」と定義する。わかりやすい例が幕末の動乱期の京都。京都という容れもの、つまり場があり、そこに西郷隆盛や坂本竜馬が集まり、互いに刺激し合ったからこそ、あんなにも早く倒幕が起こせたというのだ。もし仮に場がなかったら、人と人の相互作用が少なくなって、違った歴史になっていたかもしれない。
そう考えると、容れもの、つまり場のもつポテンシャルの高さがうかがえる。水を沸かすにも、大きすぎる鍋より、適当な大きさのヤカンのほうが早く沸く。水が内部で対流し、相互作用が活発になるからだ。これと同じで、人間も場があるからこそ、感情や情報の流れが加速されるというわけだ。
場が生まれる瞬間と、場が生み出すもの
では、どのように場が生み出されるのか。伊丹教授は3つの例をあげて説明した。