企業事例 本田技研工業 プロジェクトにおける人材の育成は 従来にない奥行きをもつ
人材育成の場としてプロジェクトを利用する仕組みは、まだ一般的ではない。
しかし、プロジェクトに参画したメンバーが、通常の業務を行う以上の成長を遂げるケースは、どの企業でも見られる現象だろう。
本田技研工業が全社プロジェクトを行う中で感じたプロジェクトマネジメントのあり方、そしてその結果、人材育成の観点からどのような効果が得られたかを聞いた。
会社を改革する起案はメンバーの検討会からスタート
本田技研工業は、そのルーツである二輪事業はもとより、四輪事業でも世界屈指の技術力を誇る。近年ではロボットやジェットエンジンの分野にも乗り出している。モータースポーツの分野でも活躍しており、世界中にファンをもつ国際企業だ。
その本田技研工業が2004年から取り組んでいる全社的な生産プロジェクトがある。2004年12月に課題を検討するために集められた生産管理部門のメンバーが、その原因を分析する中で、部門単独では根本的な解決が望めず、購買部門や営業部門、研究部門など、全社をあげて社内の業務プロセスを見直していくことを起案し、スタートした。
本田技研工業にあっても、このような大型プロジェクトはそうあるものではなかった。通常、問題が起きた時には部門ごとに解決され、全社的なプロジェクトになることはない。部門間にまたがる問題であっても、ほとんどの場合はその上部組織である経営会議等にかけられることで解決されていた。今回のケースは問題の深刻性、根深さゆえに、解決時期を明確にしなければ今後のビジネス拡大の大きな障壁となり、また同時に、新たな地域への新規参入が遅れる可能性もあると分析された問題である。
「全社をあげて、仕事のやり方を変えていこうというプロジェクトですから、各部門がそれに対応していかなければなりません。その旗振り役となるためには、それに対応できる規模の人員が必要なのです」
2004年12月に召集されたメンバーのうちの1人であり、現在もプロジェクトマネジャー的な役割を果たす松川貢氏はそう語る。
全社プロジェクトはそれほど行われていなかっただけに、松川氏自身もこれだけ大規模なプロジェクトを経験したことはない。入社3年めに北米地域で新規に工場を立ち上げるプロジェクトに参加したことはあったが、それらのプロジェクトには社内に蓄積されたノウハウがあった。しかしこのプロジェクトは、まさに手探りの状況に近い状態からのスタートとなった。
大きさを問わず、全社プロジェクトでは意義やアウトプットを見据えた計画性が重要になる。その点で、このプロジェクトは難しい船出となった。
管理項目を見直し、マネジメント能力の向上、均質化を図る
「どういうプロセスを踏んでいけば問題が解決できるのか、それについて前例もノウハウもありませんでした。どのようなマイルストーンを立てながら、どういった管理項目やマネジメントが必要なのかも参考にするものがなかったのです。プロジェクトですから、そういったものをつくり上げ、計画を立てていかないと、プロジェクト自体が崩れ去ってしまう可能性があります。そこが最初の課題となりました」
さらに、このプロジェクトは企業改革をテーマにしているため、結果的に現行の部門の仕事を変えていくことになる。そのため関係部署と折衝し、合意を取りつけることが欠かせない。各部門が自らの問題として現状をとらえ、意識を変革し、事業に展開できれば、アウトプットに反映される。それが理解されれば、プロジェクト自体はうまくいったも同然だという。しかしそこが一番難しい点であり、合意までの道のりははるか先だ。そしてこの部分こそが、このプロジェクトマネジメントの要諦だった。
今回のプロジェクトではメンバーを大きく3つに分け、プロジェクトリーダー(PL)を配置し、さらにその中も切り分け、サブプロジェクトリーダー(SPL)を配置した。マネジメントスパンを各個人の実力値の中に収めるように配慮したのである。