企業事例 シャープ 社内横断プロジェクト「緊プロ」による人材育成
社長直轄の社内横断プロジェクト「緊急プロジェクト(緊プロ)」の立ち上げから約30年。
この間に、250を超えるプロジェクトが組まれてきた。緊プロに選ばれた人材は、プロジェクト終結まで従来の所属を離れて活動する。力点はあくまでも開発にあるが、結果として、すべてのメンバーが部門を超えて仕事を進める方法を身につけるこの緊プロこそが、シャープにおけるプロジェクト・ベースド・OJTと言えるのではないだろうか。
30年の歴史をもつ社内横断プロジェクト
液晶テレビのAQUOSやAQUOSケータイ、液晶ビューカムなど、時代を牽引する新製品を常に発表し続けてきたシャープ。新しいアイデアと技術開発を結びつけるその戦略は、「他社に真似されるような商品をつくる(特長商品づくり)」という「オンリーワン戦略」として名高い。
中でも「緊急プロジェクト(緊プロ)」と呼ばれる社内横断的なプロジェクトは、シャープ独自のモノづくりを支える仕組みとして知られている。緊プロはまさにプロジェクトで行われるOJTであり、技術者の大きな成長機会としてとらえることができる。
「イノベーションを実現する開発リーダー」「モノづくりへの想い・情熱を有したプロフェッショナル」。この2点は、シャープが求める研究開発人材像である。特にリーダー育成においては、その基本はOJTと選抜による体系的育成にあり、研修とチャレンジングな仕事経験によるストレッチ、幅広いT型人間(幅広い教養と高度な専門性を併せ持つ人材)の育成、優秀者を選抜しての集中的人材育成などを重点施策と定義している。その意味で緊プロは、まさに「チャレンジングな仕事経験」を与える場であり、経営戦略上、重要なプロジェクトであると同時に、人材育成においても重要な役割を果たしている。
緊プロは経営戦略上、技術開発戦略上、重要と判断された緊急テーマについて、人材、予算など、あらゆる経営資源を優先的に活用することが認められている。期間は1年から1年半程度。最初の緊プロが立ち上げられたのは1977年。以来30年、商品開発、要素技術開発、部品開発などの幅広いテーマについて、250を超えるプロジェクトが組まれてきた。
原型となったのは、1973年の「S734プロジェクト」である。これは世界初の液晶表示装置を搭載したCOS化電卓の開発を目指したプロジェクト(COSとは“Chip On Substructure”の略で、1枚の基板にすべてのチップを実装したもの)。当時各メーカーは電卓市場をめぐって、激しい開発競争を繰り広げていた。その市場を制することを目的に、「1年間で薄型・低消費電力の画期的な新製品を開発せよ」との社命が出され、電卓と液晶技術者による混成チームが発足。厳命通り、1年間で世界初の液晶表示電卓「エルシーメイト」の商品化に成功したのである。シャープがその後、電卓市場において圧倒的優位を確立したのは周知の通りである。
全経営資源を優先活用する社長直轄プロジェクト
「緊プロは全社の人材や予算を優先的に配分していくプロジェクトであり、テーマ選定には厳しい審査があります」と福島隆史氏(技術本部総務部長)は言う。テーマそのものがオンリーワンであることはもちろん、ある程度大きな事業規模が見込めても、独自技術ではないもの、すでに他社が先行しているものは認められない(図表1)。
最終決定は月1回開催される「総合技術会議」が下す。この会議は、社長、役員および技術関連部門、営業部門など、全事業本部の本部長が出席するもので、技術をテーマに全社的な検討・討議を行う場として機能している。同じく全本部長が出席する経営会議とは、別に設置されているのが特徴だ。「技術の話を技術屋だけでしない。社長や営業本部長など、全本部長が出席する会議で技術についての話をする場があるというのが、こういった緊プロやシャープの技術開発を支える大きなバックボーンとなっています」(福島氏)。緊プロとして常時10前後のプロジェクトが動いており、各チームは10人~数十人の布陣となる(図表2)。