提言 「多異変な時代」に対応する人材育成の新しい波 プロジェクト・ベースド・OJT(P-OJT)へのアプローチ
ビジネス環境の激変に伴って仕事の進め方も変化し、「仕事=プロジェクトワーク」という時代に入った。
従来のOJTはルーチンワークの中で行われてきたが、仕事がプロジェクト単位になるとそこで行われるOJTも必然的に変化してくる。
プロジェクト・ベースド・OJT(P-OJT)は、このような背景から生まれた概念だ。
本稿では、P-OJTについて、これまでのOJTと何が違い、何が課題になるのかを模索する。
OJTはいらなくなったのか?
「OJTはいらないって言われたんですが、船川さんはどう思いますか?」尋ねてきたのは外資系の人材開発マネジャー。
「逆ですよ! いらなくなったのではなく、もっと大変になっているでしょ。ところで、誰がそんなことを言っていたのですか?」と反対に聞き直すと、あるコンサルタントの名前が出てきた。思わず「やはり」と言った。そのコンサルタントは現業ビジネス経験がない方であった。現場感覚が甘かったのかもしれない。
3年前のこのやり取りをきっかけに、プロジェクト・ベースド・O J T(Project-based OJT:略してP- OJTとする)というコンセプトを考えついた。
これまでのOJTはルーチンワークを通じて行われてきた。今や仕事がルーチンワークからプロジェクトワークにシフトしている。本来であれば、プロジェクトメンバーがアウトプットを出すために必要なスキルをもっていなければならない。しかし、現実はそうはいかない。PMBOK(Project Management Body of Knowledge :「プロジェクトマネジメントの知識体系」の意味、Project Management Institute発行によるプロジェクトマネジメント(PM)の教科書として、もはやグローバルスタンダードになっている)に書かれているプロジェクトマネジメントに必要なスキルはもちろん、チームメンバーとしてチームに貢献すべき、本来もっていなければならないはずの専門スキルまでがまだ合格点に至っていない、という状況が起きているのだ。P-OJTという名称は私のオリジナルであるが、呼称は別にしても、先進企業ではすでに実践しているところもある。
そこで本稿では、P-OJTについて、これまでのOJTと何が違い、何が課題になるのかを模索したい。
なぜP-OJTか? P-OJTは環境激変の産物
言うまでもないが、P-OJTが必要になってきた理由はビジネス環境の激変である。加速度的に進むデジタル革命とグローバル化、その影響で企業が地球規模で、マーケットと競合を視野に入れながら、いかに知的付加価値をつけていくかを考えなければならない時代になって久しい。顧客の要求と期待値が指数関数的に高まる中で、製品ライフサイクルは短くなり、一方では企業活動の透明性と説明責任はますます求められる。私はこれらを称して「多異変な時代」と呼んだ。
「多異変な時代」への対応として、各企業は戦略的提携、M&Aと合従連衡を進め、組織のフラット化とBPR(Business Process Reengineering)、そしてアウトソース、オフショア開発と展開しているのは周知の事実だ。社内・社外の垣根がなくなるという意味での「バウンダリーレス組織」はすっかり現実のものとなっている。
となれば、仕事の進め方も変わってくる。一言で言うと「仕事=プロジェクトワーク」になってくるのだ。内容の前に言葉の整理をしておこう。PMBOKでは日常的なオペレーションと短期、具体的な成果を求められるプロジェクトと分けている。ビジネススクールのHRM(人的資源管理)やOBH(組織行動)でも、部や課というワークグループとそのような固定的な機能をまたいで、目標達成のためにつくられるプロジェクトチームと分けていた。従来のこの区分が、もはや、あまり意味をもたなくなっている企業が出てきている。理由は、多くの組織で起きている次の現象を見れば明らかだ。
1 ルーチンがプロジェクト化
ルーチンがはっきりしている部といえば、一般的には総務、人事、経理、調達などスタッフ部門の名があがるだろう。あるいは、ルートセールスも販売活動の中ではルーチンが確立しやすい。
確かに、ルーチンワークがなくなるということではないが、特にこの10年間で文字通り、繰り返し作業のルーチンワークはコンピュータ化とアウトソースによって急速に減ってきている。結果として、相対的に増えてきている作業はというと、SCM(Supply Chain Management)やABM(Activity-Based Management)の実施、日本版SOX法(サーベンス・オクスリー法)導入という具合に、他部署との緊密な連携を求めながら、明確なアウトプットを出していく作業である。ルートセールスもルーチンとして行うのではなく、付加価値を考案し、提案営業、チーム営業が求められている。つまり、ルーチンワークのプロジェクト化の傾向がみられる。
2 プロジェクトがルーチン化
そもそも、右肩上がりの成長期に、おとなしいステークホルダーを相手に仕事を行うのであれば、ピラミッド組織の中で部や課の作業をしていればよかった。ところが、「多異変な時代」ではピラミッド組織は機能しない。よって、フラット組織が求められるのだが、フラット組織の運営は簡単ではない。これも私は数年前から「フラット組織はプロジェクトチームの常態化が起きる」と述べていた。1人で、同時期に3~4つのプロジェクトチームに入っている人を探すのはそれほど困らないだろう。まさにプロジェクトがルーチンになっている状況が出現している。
以上のように、どちらのアプローチにせよ、また業種業態で程度の差こそあれ「仕事=プロジェクトワーク」の現象が起きている。