連載 調査データファイル 第75 回 雇用・人事システムの構造改革 中小企業の人材育成Part5
従業員50 人未満の中小企業の多くは、思うような採用ができず、内部育成に消極的なあまり、悪循環に陥っている企業もある。
そこで今回は、調査データと、ある中小企業の取り組みを通して、中小企業における人材育成の方法を探っていく。
1. 中小企業の悪循環
経済産業省「平成16年度人材ニーズ調査」によれば、全国の求人675 万人のうち、従業員50 人未満の企業の求人が85.7 %を占めており、中小企業の雇用創出に占める役割は、非常に大きいものがある。しかしながら、従業員50人以上の企業の求人に対する平均充足率が約100 %であるのに対して、50 人未満の企業では大幅に下回っており、平均充足率は約53 %にとどまっている。つまり、求人市場では従業員50 人規模を境としてかなり異なった状況が存在しており、50 人未満の中小企業では、思うように人材を採用できないといった状況に置かれている(図表1)。
こうした50 人未満の中小企業は、どのような人材を求めているのかというと、「専門・技術職」(39.7 %)と「事務関連職(特に営業・販売職)」(34.9 %)が多くなっている。特に「専門・技術職」の求人は、300 人以上の中堅企業と比較すると11.8 %も高い。50 人未満の中小企業で「専門・技術職」の求人ニーズがかなり高くなっているのは、組織変更や新規事業に関連した事業拡大によって人材の「新規需要」が発生した場合、企業内に人材の余裕がないため、どうしても外部から求めざるを得ないという事情を反映しているものと思われる(図表2)。
ところが「専門・技術職」は、労働市場では採用しにくい代表的な職種であり、知名度の低い中小企業には、求職者もそれほど集まらないという状況にある。さらに、企業体力が小さい中小企業の多くは、時間とコストのかかる新卒採用・内部育成といった人材マネジメントには消極的であり、どうしても即戦力の人材を中途採用しようとする。こうした中小企業の悪循環ともいえる経営活動が、求人の未充足状況を一層強めているものと思われる。
2. パティシエ社長の経営方針
中小企業の中にも人材を内部育成しようとしている企業がある。今回紹介する東京・銀座に本店を構える洋菓子店「ブールミッシュ」は、パティシエを内部育成している。