講演録 米国の最新メンタルヘルス事情 乱立するEAP を「評価」して全体の質の向上を図れ
2007年9月19日(水)、産業医科大学主催の「職場のメンタルヘルス対策講演会」が開催された。日本でも、従業員のメンタルヘルス支援対策としてEAP(Employee AssistanceProgram、従業員支援プログラム)の導入が検討、実施されてきているが、同時に新たな課題も露呈しつつある。この課題とは何なのか。また、解決策は? アメリカにおけるEAPの設計、実施、評価分野の第一人者デール・A・マッシー教授が、自らの経験に基づく先人の知恵を語った。
EAP先進国アメリカが抱える問題とは?
「日本の皆さんにはぜひ、この25年間のアメリカの経験を活かして欲しいと思います」(マッシー教授、以下同)。
この「経験」とはいったいどのようなものだろうか。アメリカは、どういった経緯でEAPを導入し、どのような問題に向き合ってきたのだろうか。それは、マッシー教授の掲げたEAPの定義に表れている。
「EAPとは、仕事に影響しうるアルコールや薬物、情緒等の問題を持つ従業員への専門的なアセスメント、紹介、短期カウンセリングサービスである」
アメリカでEAPの導入が本格的に進んだのは1970年代、ベトナム戦争後の混乱期である。帰還兵や多くの人が、戦争の後遺症や経済不安から心の病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)などを抱え、結果的にアメリカ経済に深刻な影響をもたらしていた。当初は特にアルコール依存症による生産性の低下に焦点があてられ、克服のためのプログラムが企業によって導入されたという。
その後、EAP業者やそこに働く専門家への企業の要求がさらに強まり、プログラムの内容も充実していった。今やEAPは、プログラムの構築から24時間体制の電話相談窓口、さらには従業員教育に至るまで、広範囲にわたり従業員を支援するプログラム(図表1)となった。アメリカの大手企業では、日本のそれとは異なり、基本的に産業医などのEAP的機関を社内に持たない。よって、需要に合わせてEAPを提供する機関の数が増え続け、価格競争、生存競争が起こり、そのサービスの質の点でまさに「玉石混淆」の状態となったのである。
EAPそのものを「評価」して品質を底上げする
費用はかからないが効果もない。そんなプログラムが多く出回っても、従業員の支援、さらには生産性の向上にはつながらない。そこでマッシー教授らは、乱立するEAPを見極めて質を向上させるために、「EAPの品質管理(Quality Assurance)ということについて考え、EAPの“認定(Accreditation)”や“評価(Evaluation)”を始めた」という。「部下が上司を評価することもあるように、EAPそのものが評価されない理由はどこにもないのです。どんなプログラムでも常に評価を受けて改善されていく必要があります。きちんと品質管理を行ったプログラムを提供することによって、従業員が会社や人事開発担当者を信頼するということにもつながります」
「認定」とは、EAPの機関に対する評価と、提供されるプログラムの質を外部から保証するということである。この根本には「エビデンス(根拠)に基づく対策」という考え方がある。「私たちはどんなカウンセリングをするにあたっても、きちんとしたリサーチや経験者の所見に基づいて行わなくてはなりません。EAP業者には、方法論や、なぜそれを行うのか、どういうアプローチを取っていくのかなどを明らかにさせるべきです」
EAP業者と契約する際に重要になるのは、提供されるサービスに関する「パフォーマンスのガイドライン」や「保証」である。「契約書には、実際に皆さんが必要なものがこと細かく書かれているかどうか確認してください。たとえば、利用率について最低ラインを設けておく。それよりも低かった場合にはペナルティをもらう、というようにです。こうしたことを行うことによって、プログラムがあるべき形で実施されることになるのです」
EAPを評価する具体的な10の方法
では、評価とは具体的にどんなことを行うのだろうか。マッシー教授はEAP評価の方法について次の10項目をあげた。「これはメニューのようなもので、この中から自由に選択すれば良いのです」