人材教育最前線 プロフェッショナル編 徹底した現場主義からの気づきが、本質をついた研修を可能にする
「研修の企画を立案するには、研修の現場を熟知していなければできない」と、三菱電機人材開発センター企画グループマネージャーの石田秀樹氏は断言する。実際に研修のインストラクターとして、またコーディネーターとして実務を経験していなければ、研修プランは構築できないという。研修の現場や夜の飲み会でしか聞こえてこない“社員の本音”があるからだ。現場主義を徹底する石田氏に、研修に対する想いを伺った。
人材育成の機能を集約し、人材開発センターを創設
三菱電機は、「社員1人ひとりが、組織目標を理解し、自らの役割を認識する中で常に業務革新を行い、高い付加価値を創造する企業を目指す」、そして「個々人が現状に安住することなく、自らの価値(スペシャリティ)を高め、プロフェッショナルとして常に高い目標にチャレンジし、経営に貢献しようとする風土を醸成する」ことを目的に、2000 年から人事制度の改革に取り組み、2004 年に完成させた。それに合わせて各部門に分散していた人材育成の機能を集約し、人事部長直轄の人材開発センターを誕生させた。
この時、人事部人材開発センター総合経営研修教室長として兵庫県三田市の人材開発センターへ異動となったのが、石田秀樹氏である。一方で、2006年8月より企画グループマネージャーも兼務している石田氏は、2 枚の名刺を使い分けながら、この3 年間、全国を飛び回って忙しく仕事を続けている。1週間のうち、1日を東京本社、2日を三田市の人材開発センターで勤務。残りの2日は全国にある他の研修センターか事業所へ足を運び、研修の企画や運営を取りまとめたり、講師やファシリテーターとして研修の現場を取り仕切っている。
現場を熟知していなければ業績向上のための人材育成はできない
石田氏が教育担当者としてのキャリアをスタートさせたのは、1991 年、30歳の時だった。大学で会計学を学び、同社に入社してからは名古屋製作所で営業の仕事を続けていた石田氏にとって、研修担当への異動は思いがけないものだった。まったくの畑違い、と思ったからである。
「これまでの経験は、まったく役に立たない、そう思いました。ですから、必死に勉強しました」と、石田氏は述懐する。
畠山芳雄氏の著書をはじめ、D・カーネギーの3部作『人を動かす』『道は開ける』『名言集』やK・ブランチャードの1分間マネジャーシリーズなど、役立つと思うありとあらゆるビジネス書や教育関連の書籍に目を通したという。
教育担当として初めて任されたのは、名古屋製作所の新入社員教育と管理者研修だった。新入社員研修を中心に、講師役もこなさなければならない。どうやって研修の場で自分を表現すればいいのかを学ぶために、行動科学や交流分析などについても学んだ。
「『洗脳体験』(二沢雅喜・島田裕巳共著)も読みました。当時は自己啓発セミナーがブームでしたから」。新入社員セミナーを実施する前には、「これって洗脳じゃないですか」と問われたらいかに答えるかを研修スタッフで検討したりもしたそうだ。
「“テクニックからいえば、洗脳かもしれない。だけど、私たちは君たちを悪い方向へ導こうとは思っていない”。きちんとそう説明しようということを確認しました。もっとも、実際にはそういう場面はありませんでしたが(笑)」
研修を行う前には、体験セミナーに自ら通い、講師のテクニックを学んだりもした。そして、実際に新入社員を前に研修をやってみて、講師という役割に手応えを感じている自分を発見した。「知識として学んだ行動科学が、実際に集団の中に現れることに驚きました。なるほど講師がこう接すると聴衆はこのように反応するのかという事実が、不謹慎かもしれませんが面白かった。そこで、講義を充実させるために研修にさまざまな仕掛けを工夫しました。それが思い通りにはまるのも楽しかった」
さらに経験を重ねる中で、これまでの経験が、いかに役に立つかということにも気づかされた。経理や営業という仕事がわかっていないと、メーカーで仕事をするということがどういうことか、事業とはどういうものかが理解できないからだ。事業の業績向上のために人材を育成するという意味において、現場ではどのような問題に直面するのかを熟知していなければ、研修の場で何を学べばいいのか、示すことができるはずがない。