企業事例 損害保険ジャパン リアルな職場の人間関係を実現させた SNS型ネットコミュニティ
ナレッジマネジメントの再構築を契機に、人間関係の構築を視野に入れる中でSNSの利用にたどり着いた損害保険ジャパン。
2006年より運営が始まった「社員いきいきコミュニティ」は、現在では58のコミュニティを持つほどまでになった。
ファシリテーターである経営企画部の諸氏に、現在までの経緯や苦労話を聞いた。
経営層の強い危機感のもと全社改善運動がスタート
2002年、安田火災と日産火災・大成火災が合併して誕生した損害保険ジャパン(以下、損保ジャパン)が、全社運動「感動創造宣言」をスタートさせたのは2004年4月だった。「感動」をキーワードに、社員1人ひとりがお客様の期待を上回るサービス(感動品質)を提供することによって、お客様および会社にとって価値の高い企業になることを目指す、というものである。
全社運動展開の背景には、経営層の強い危機感があった。2003年、損保ジャパンは自動車保険部門の成績保険料では業界トップとなるなど業績は堅調、株価も好調。社外の調査機関によるCS(顧客満足度)調査も高評価であったし、大学生が選ぶ就職人気企業ランキングでも高い位置に社名が並ぶなど、外部指標からみる評価はきわめて良好だった。
ところが、社内にはそうした評価を素直に喜べない現実があったのである。実際にお客様や代理店の声を聞くと苦情は少なくないし、社員の間には疲弊感が蔓延していた。これではいけない、会社が求めるあるべき姿と現実の違いは何か、まずは現状を把握しようと、第一線で実施したのが、「感動創造ミーティング」だった。全国の課支社ごとに今抱えている問題点について、1人ひとりが率直に意見を出し合ったのである。
この時、社内の情報に関する要望も多く寄せられた。整理すると、「見つけたい情報が見つからない」「情報が本社から支社への一方通行である」「全社でのナレッジの共有ができていない」という3点に集約された。
こうした現状を受けて、経営企画部経営品質グループ課長の槻木清隆氏、課長代理の沖圭一郎氏を中心に、ナレッジマネジメントをいかに再構築していくかの検討が始まった。
効率化を追求する中で失った、認め合い、支え合うという関係
「最初は、もっぱらシステムについての議論をしました。使用しているソフトの機能や、データの整理の仕方についてなどです。しかし議論を重ねる中で、問題はデータ処理だけにあるのではなく、データを活用する側にもあるのではないか、ということに気づいたのです」と、槻木氏は当時を述懐する。
そこで槻木氏らは、今、社内で何が起きているかを分析した。
「グローバルな企業間競争が進む中で、たとえば製造業なら、業務プロセスの革新やビジネスモデルの変革によって、経営の効率化を実現し、高い顧客満足を得ていると思います。しかし金融業界は、人が中心の仕事。実は私が入社した20年前から、仕事の中身はほとんど変わっていません。お客様に商品を直接売るのは代理店。私どもはその方々を支えるという立場です。
そうした中で、効率化を推進するために何をしてきたか。簡単に言ってしまえば、人件費の削減です。それは人員を削るということではなく、福利厚生の部分。施設を自社で持たなくなったり、運動会やクラブ活動をやめてしまったり。仕事の効率を追求するあまり、職場内の遊び感覚みたいなものもなくなってしまった。それと同時に、我々は多くのものを失ってしまったのではないか……」
失った多くのものとは、「先輩の背中を見て育つ」「休憩室、タバコ部屋などでのノウハウ伝承」「みんなで仕事をする納得感やチームワーク」「居酒屋、オフ会での感情共有」「社内運動会、部店旅行など各種イベントによる『我が社意識』」だと、槻木氏は分析した。こういった現実が、かつては濃厚にあった働く現場の人間関係を希薄にしてしまった。本音で話し合う場がなくなってしまったからである(図表)。
本音を語り合う中で、互いの信頼関係が生まれる。信頼し合うからこそ、認め合い、支え合うという関係になり、知の共有が実現できる。ナレッジマネジメントの本質は、データを管理することではない。データをいかに活用するかであり、それは人間関係が醸成できなければ実現できない。
「いかに人間関係を構築するかについて考えていく中で、ある時SNSを利用しては、という提案を受けました」と、槻木氏は説明した。もっとも、槻木氏はこの時、SNSが何であるかまったく知らなかった。