社内コミュニケーション調査レポート 個人起点のコミュニケーションが イノベーションを育む土壌を醸成
新卒採用と終身雇用によって培われてきたかつての濃密な社内コミュニケーションに代わり、「個人を起点としたコミュニケーション」が新たな流れの主流になってきた。
現場の個々人が自律分散的・自発的に各自の想いや主観を交差させ、知を創造していくことができるようになり、それをサポートする新しいリーダーシップも変化する。
社内コミュニケーションの役割やありようが、企業の環境やIT、社員の意識の変化の中でどのように変化しているのか。また企業のパフォーマンスとどう関係するのかを調査した。
調査の狙いと概要
これまでの日本企業の社内コミュニケーションを振り返ってみると、そこには明示的な方針伝達の仕組みや、組織を素早く方向づけるための意識的なコミュニケーション施策はほとんど存在しなかった。むしろ、終身雇用と新卒採用による一体感のある組織づくりとともに、上司・部下の職場での濃密な関係性の中での「阿吽の呼吸」が主な社内コミュニケーションツールであり、コミュニケーションとは企業風土に織り込まれたものだったともいえよう。
しかし、高度経済成長が終焉し、より機敏な戦略的意思決定とその迅速な実践が必要になるとともに、社内コミュニケーションの重要性は増大した。企業の方向性を社員へ瞬時に徹底し、変革の実行と絶えざる効率化を促進する必要が出てきたのだ。そこで、ビジョンの明示と浸透、社内の情報共有、新たな価値観の徹底、グループ内での一体感の維持など、よりダイナミックな組織づくり、社員の動機づけがテーマになってきた。いわばトップあるいは会社主導の明確なメッセージ発信としての役割、すなわち「会社・トップ主導のコミュニケーション戦略」の側面が強調されるようになったのだ。この顕著な例が、カルロス・ゴーンCEOが示した日産自動車のV字回復における「企業変革コミュニケーション」の徹底だろう。
近年では、こうした努力がさまざまな企業で図られるようになる一方で、企業を取り巻く環境はさらに複雑化し、知の創造やイノベーションの要請、企業活動のグローバル化、企業構成員のダイバーシティなど、単に同質な社員に会社の目標をしっかり明示する以上の、よりメッシュの細かい包容力のあるコミュニケーションが重要になってきている。またWeb2.0の通信技術が整い、若手世代のP2P(デジタル端末を介した1対1のやり取り)のコミュニケーションスタイルが加速しつつあり、現場レベルでのコミュニケーションは世代間のギャップを抱えながらも、自然発生的に活発化している側面もある。
このような流れは、組織の視点からの情報共有と徹底が主流だったこれまでの企業内コミュニケーションに新たな流れ、すなわち、「個人を起点としたコミュニケーション」の流れを起こし始めているといえよう。
こうした個人起点のコミュニケーションは、左脳の論理分析的で目的合理的な思考とは異なり、個人の想い・主観・価値観が色濃く出る。現場レベルの暗黙知の共有、試行錯誤の相互認知と許容、数値目標以外のシャドーワークでの協力、個々人の内因的モチベーションの共感・共鳴などを促進し、企業のダイナミズムの底上げにつながると考えられる。
現場の個々人が自律分散的・自発的にボトムアップ、ミドルアップダウンで各自の想いや主観を交差させ、知を創造していくことができるようになるわけだ。さらにそのような自律分散型のコミュニケーションをサポートする新しいリーダーシップのあり方も必要とされる。
このように、社内コミュニケーションの役割やありようが、企業の環境やIT、社員の意識の変化の中でどのように変化しているのか。また企業のパフォーマンスとどう関係するのか、そのような実態を浮き彫りにする調査を下記の通り実施した。
調査結果の概要
コミュニケーションは組織から個人起点へ
図表Aを見ていただきたい。64.3%の企業で現在最も力を入れているコミュニケーションは、「会社や業務に関連する情報の周知・徹底」であり、会社主導の社内コミュニケーションが非常に大切であることがわかる。その一方で、「経営者や上司の考えや気持ちを伝えるコミュニケーション」や「社員間で考えや気持ちを伝え合うコミュニケーション」に力を入れている企業は合計で63.2%。また、今後力を入れていきたいとする企業も合計で69.1%に上っており、「個人起点でのコミュニケーション」が組織の階層を問わずに、あらゆるレベルで重要になりつつあることがわかった。
もっとも、コミュニケーションツール上では、電子メールや社内報、社内掲示板などの会社主導ツールの実施度合が50~90%以上と、ほとんどの企業で用いられているのに対して、個人起点で重要となるSNSやブログなどの導入度は、まだ10~20%と少ないのが実態だ。しかし、今後の導入予定も合わせると35%程度にまで高まっており、技術や経営者・社員のリテラシー向上とともに進展していくと考えられる(後出図表1~4)。
実践重視のHOW型組織、本質重視のWHAT型組織
今回の調査においては、企業のマネジメントスタイルあるいは風土の特徴別にコミュニケーションのありようを比較する手法をとった。ここで設定した軸は、会社が決めた方向性や目標を目指して社員はその方策を考え、実行に注力する「実践重視タイプ」か、目標達成へ向けての実践よりも、むしろ何を目標にすべきなのかを社員間でしっかり検討する「本質重視タイプ」かである。前者を「HOW型組織」、後者を「WHAT型組織」と名づけた(図表B)。
この両グループ間でコミュニケーションの特徴を比較してみると、次のようなことがわかる。
HOW型組織では、全般にコミュニケーションに対しての意識や活動がWHAT型組織に比較して高くない(後出図表2)。特に、情報発信型のコミュニケーションツール(社内報、掲示板、業務連絡メール、社内ポータルなど)ではそれほど差がないものの、情報交換型のコミュニケーション(ナレッジマネジメント、社内イベント、社内SNS、社内ブログなど)については、WHAT型組織のほうが関心が非常に高いことが特徴的である。
また、個人起点で想いを伝えるコミュニケーション(後出図表1)でも、力を入れていないという組織の割合が、HOW型組織では57.1%に達するのに対して、WHAT型組織では33.0%のみと、意識の差が非常に大きいことがわかる。それを受けて、経営トップ層からの発信(図表C)では、HOW型組織が社長・役員からの間接的なメッセージ発信(社内報やメールなど)が主体であるのに対して、WHAT型組織では、会食、懇親会、勉強会など、トップとのFace to Faceの場が多彩に用意されている。