My Opinion 社内ブログと社内SNSが促す 社員同士の人間関係構築と感情の共有
日本の大企業にはかつて、社員同士の人間関係を構築する仕組みがあった。
しかし、効率化と成果主義を推進する中で、多くの企業がその仕組みを失うことになった。
社員同士の人間関係喪失が、人材育成の弊害として指摘されている現在、その打開策として注目されているのが社内ブログや社内SNSの活用だ。
どのような取り組みが成果を上げ、どのような課題があるのかを考察する。
行き過ぎた効率化が職縁や絆を求めた
大企業を中心に今、社内ブログや社内SNSが浸透しつつある。その背景には、積極的なIT投資などにより効率化を追求してきた反動がある。
技術革新はグローバルな経済活動を促進させ、企業間競争の激化は市場原理主義を徹底させた。時代が大量生産・大量消費から、顧客1人ひとりのニーズに応じた商品を提供するマスカスタマイゼーションの時代へと移ると、企業はそれに対応するために効率化を追求し、さらに社員の個の自律とプロフェッショナル化を求めた。そして、バブル経済の崩壊で景気が傾くと、日本企業はリストラを断行するとともに成果主義を導入。その結果、業績回復を果たした。
しかし、成果主義を推進し、効率化を図った結果、社員にどういった現象が起こってしまったか。他人に対する興味を失ってしまったのである。というのも、社員の成果を評価する前提となる目標管理シートには、他者とのかかわりを重視するような項目は含まれていなかったからだ。近年、OJTの衰退や部下育成力の低下が指摘されているが、これもまた同様である。
評価されないことを人は積極的に行わない。いや、むしろシートに記された目標を達成することに汲々として、それ以外に手が回らない、自分にしか興味が持てないというのが実情でもあった。
そうなると、組織はドライになる。合理的で情に流されるようなことはない。そしてそこで働く社員は「孤立、孤独、接触飢餓、情報飢餓」の状態に陥ってしまった。今や多くの企業で、いや日本社会で、「心の病」「心の風邪」の問題が公然と口にされているほどだ。
このような現象は、終身雇用を前提に男性正社員を基本とした完全な職縁社会を構築していた日本企業では、ありえなかったことである。社員旅行をはじめ、家族を巻き込んだ社内運動会など、日本経済に高度成長をもたらした頃の日本企業は、職縁を重視したきわめてウエットな内向きの組織だった。
当時の日本企業は、人材育成を目的に、仕事とは関係なくさまざまな役割を社員に割り当てていた。たとえば、将来の経営を担うような優秀な人材には、労働組合の役員をやらせるなどしていた。社員同士の人間関係の構築、感情の共有は、自然と育まれていたのである。
ナレッジマネジメントからコミュニティ・オブ・プラクティスへ
業績の回復を果たしたことで、大企業が再び社員同士の感情の共有を醸成する手段として注目したのが社内ブログ、社内SNSの活用である。職縁、そして社員同士の絆を深めようというものだ。
これは、行き過ぎたBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)からの回帰ともいえる。BPRとは、売上高、収益率など、設定された目標を達成するために業務内容や業務の流れ、組織構造などを最適化することを指す。たいていの場合は組織や事業の合理化が伴うため、高度な情報システムが取り入れられることが多い。個人の持つ知識や情報を組織全体で共有し、有効に活用するためのナレッジマネジメントもBPRの一環である。