提言 広がりつつある社内ブログや社内SNSの活用 個の自律を促す社内コミュニケーションの 場づくりにエネルギーを注げ
企業において、今最も大きなテーマになっているのが「個の自律(自立)」である。
その手段として注目されているのが、ブログやSNSといった新しいコミュニケーションツールだ。
しかし、その自由度の高さゆえ、管理上の問題や守旧派の抵抗などから、社内への導入に二の足を踏む企業も少なくない。
ここでは、どんなツールを、どのように導入・活用すればいいのか、先進企業の例をみながら考えてみたい。
キャリア自律と社内コミュニケーション
企業における組織と個人の関係に大きな変化が現れ始めている。いわゆる、組織内での「個の自律」の動きである。これにより組織のマネジメントや人事の仕組みにも、従来とは異なる動きが出始めてきた。従来型の組織の効率的マネジメントに加えて、個々人のキャリア自律をサポートする一連の新しいサポートメカニズムの整備である。
もちろん従来型の効率的マネジメントの運用は残るであろうし、まだ試験的な新しい動きとはいえ、キャリア自律を促進・サポートする多様な活動が顕著になってきた。この従来型と新しいアプローチの対比をまとめたのが図表である。
たとえば教育研修では、階層別研修に加えてライフステージ別の節目研修などが積極的に導入されるようになった。人事考課評価では、特定の役割に必要なスキルやコンピテンシーの評価に加えて、人間力といった、より包括的な力がその対象となりつつある。個人の異動や昇進に現れる組織主導の人材配置では、社内公募・応募やFA(フリーエージェント)などがキャリア自律の受け皿として充実化の方向にある。
また、職場における指導・支援においては、直属の上司や先輩による指導に加え、他部門や分野に属し、斜めの関係にある人、いわゆるメンターと呼ばれる支援者によるライフキャリア的視点からの支援も注目されている。管理者や上司の役割に関しては、マネジメントの能力に加え、多様な立場のメンバーから信頼を勝ち取り、個人の自律的成長を支援するコーチの役割なども望まれるようになり、管理者研修等でこうしたコンミュニケーションがテーマとして取り上げられるようにもなってきた。
さらに、従業員個人の意識にも新たな展開が見られる。従来、従業員意識といえば、モラールや忠誠心といった、企業の視点から個人の意識をコントロールする要因が重視されていたのに対し、近年では個人の主体性や立場、価値観を重視するようになってきている。ワークライフバランスに代表される働きやすさへの支援、エンゲージメント(会社と個人の強い結びつき)等の新しい概念から来る働きがいの醸成、さらにはモチベーションや心理的契約をベースとした帰属意識が、キャリア自律の視点から積極的に論じられるようになってきている。
このキャリア自律においては、従業員意識への展開を前提とした個人の立場や価値観に配慮・対応し、心理的満足を高めるための諸施策を組織として実施することが期待されている。これらの施策は、「内的キャリア」や「心理的報酬」への対応であり、企業は徐々にこの一連の施策に向けた整備を開始するようになってきた。
もちろん、この内的キャリアは従来組織の中で無視されていたわけではない。内的キャリアに対応した従業員の意識や満足に関していえば、組織にとっての主流派や勝ち組、一部の高能力・高業績の社員や経営幹部などのAクラス社員向けの報酬やインセンティブとして活用されていた。
一方、組織内のマジョリティである「普通の人」、あるいは組織の中で居場所や活躍の場を失いつつある、いわばBクラス、Cクラスの社員に対しては、内的キャリアよりも、昇進や昇格、金銭的な報酬、組織内で安定的に個々人の立場や処遇を確保することなどを、報酬やインセンティブの中心としてきた。またこれを補完する仕組みとして、対立や足を引っ張り合うことのない、暖かな友好的社内人間関係の構築がなされてきたといえる。
ところが、キャリア自律の進展に伴う内的キャリア重視への傾斜にあっては、その対象従業員層がAクラス社員に限らずBクラス、さらにはCクラス社員にまでも広がってきているところに特色がある。
このマジョリティ社員、BクラスやCクラス社員とは、具体的には「キャリアの不安や生活問題全般に悩んでいる現場の社員」「十分なチャンスを与えられず機会を逃し、女性活用の動きに置いて行かれた感を募らせる女性社員」「40代半ばで自分の将来に不安を感じながらも、何もできずに毎日をやり過ごすミドル社員」「ポストオフや雇用延長に伴う再雇用制度のもと、働き方に迷いを抱えるシニア社員」、そして「自己責任でキャリアは構築するものというプレッシャーを受けながら、組織からの処遇や仕事への要求に汲々となり先行きが見えなくなっている若手社員」などである。
このようなBクラスやCクラスの社員にこそ、不安を軽減し、現場で元気に活躍してもらうためにも、自分にとっての内的キャリアを理解してもらうことが、キャリア自律の展開において重要と考える。
そしてキャリア自律では、そのような彼ら、彼女らが、生き生きと仕事をしていくにあたり、自分にとって大切な価値観を、担当する仕事の中できちんと発揮できるよう、自らが能動的に工夫を行うことが求められる。