巻頭インタビュー私の人材教育論 自らの意思で、自ら考え、 自ら行動することが 世界初の技術や商品を生む
2001 年以降10 年間の方向性を示す長期経営構想「グランドデザイン2010(GD2010)」を策定し、「企業価値の長期的最大化」という目標に向けて着実に歩みを進めてきたオムロン。
現在進行中のその第2 ステージ(2004 ~ 2007 年)では、「収益と成長のバランス」をテーマに、事業ドメインの選択と集中、収益構造の改編による「事業価値の総和を2003 年度比倍増」を目指し、2006 年度には5 期連続の増収増益を達成した。他に先駆けるファーストワン商品を世に送り出しながら、高度化・多様化する顧客のニーズに対応し、事業・収益構造の変革を持続させていく。
その鍵を握る人材はどのように育成されているのか。2003 年よりオムロンを率いてきた作田社長に話を伺った。
強者生存ではなく適者生存の理念
── 作田社長が1968 年(昭和43 年)にオムロンに入社されたのは、創業者の立石一真さんがつくった企業理念に惹かれたことがきっかけだったそうですね。
作田
就職案内のページをめくっていたら、冒頭に“適者生存の法則”という言葉が出てきました。面白いと感じたので、東京から京都まで出かけていき、「オムロンを受験したいのだが、この写真の立石一真さんという方に会わせて欲しい。この適者生存の意味合いを知りたい」と頼んだわけです。会うことはできませんでしたが、答えは返ってきました。「適者は社会に対しての適者だが、強者ではいかん、強者生存は自分は好かん。強者生存を目指す瞬間に驕りが出る。過去においても強者が長く栄えたことはない、だからやはり適者でなければいけない」ということでした。
その中で、適者生存はともかく、強者生存は嫌だといった言葉に感銘を受けたことは確かです。今でもその考え方が浸透しているのか、オムロンは、私も含めてシェアに頼るビジネスはしない。シェアに頼るということは強者生存を目指すことになるからです。
ただし株主からは、もう少しうまく金を儲けてくれと叱られていますので、適度に儲けなければなりません。ターゲットとして営業利益率10%くらいを目標にしています。しかし、あまりそこに焦点を置いて効率を追求し、規模の経済性、シェアの拡大を求めるやり方を採って行くと、どこかで驕りが出てくるような気がしています。
最近よくグローバルナンバーワンが話題になります。グローバルナンバーワンには、「規模(シェア)ナンバーワン」「オンリーワン」「ファーストワン」の3 つがあると思います。私がオムロンでこだわっているのは、3 つめの、ファーストワンなんです。この分野のここでといった時に、ソーシャルニーズを誰よりも早くとらえ、潜在的なものを顕在化させてナンバーワンになる、ということにこだわっているといえます。
── オムロンは強者生存ではなく適者生存を志向したわけですが、具体的にはどんな企業文化だったのでしょうか。
作田
つかみどころのない言葉ですが、「そう感じたらお前がやれ」「世の中に必要な何かを感じたらお前がやったらよろしい」という感じで徹底していましたね。創業者は、やる時の原理は7:3の原理だとよく言っていました。3割のリスクならやれというわけです。そんなわけで、当時はファーストワンなどという言葉は使っていませんが、オムロンには世界初という技術や商品が結構あるんです。
── 世界初の無人駅システムや食券自動販売機など……。オムロンにはファーストワン商品がたくさんありますね。
作田
血圧計などグローバルシェアナンバーワンの商品はいくつかありますが、私はそれをあまり言うなといっています。それよりも世界初ということを自慢せよと。ユーザーからみればシェアナンバーワンなんて何の意味もないんです。内部的、管理的には便利な指標ですが、お客さんからみればナンバーワンであろうがなかろうが関係ない。自分が欲しいものを望むわけです。やはりシェアナンバーワンになると、本当にお客さんが欲しいものではなく、欲しくないものを無理やり押し付けたりする危険性が出てくる可能性があるのではないでしょうか。